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遅咲きのピアニスト 発達障害などの苦難乗り越え19日デビュー 東京

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遅咲きのピアニスト 発達障害などの苦難乗り越え19日デビュー 東京

 □「みんなを笑顔に…」

 広汎性発達障害、解離性障害、左耳感音難聴など、さまざまな障害を抱える女性ピアニストが19日、銀座の王子ホールで都内初のリサイタルを開き、“プロデビュー”を果たす。成人するまで障害のあることを理解してもらえず、いじめ被害や不登校などの苦難を乗り越えてきた、遅咲きのピアニストだ。リサイタルでは自作曲も披露する予定で、「みんなが笑顔になれるよう、心をこめて弾きたい」と話している。(川瀬弘至)

 ■自傷、いじめ、中退

 リサイタルを開くのは、宮崎県在住の野田あすかさん(34)。生まれつき他人の顔を識別することが困難で、表情やしぐさから感情を読み取ることができないなどの症状があった。このため人間関係に極度のストレスを感じていたが、発達障害であるとは家族も思わず、中学生になると自分が分からなくなる解離性障害を発症、自傷行為を繰り返すようにもなった。高校ではいじめに遭い、不登校になって転校を余儀なくされている。

 そんな野田さんにとって自分を発揮できる唯一のものが、4歳の頃に始めたピアノだった。抜群の集中力と努力によりコンクールで入賞するほど上達し、音楽の先生になろうと宮崎大学教育学部に入学する。

 ところが、ここでも周囲とコミュニケーションがとれず、重度の解離性障害で長期入院することに。ピアノが原因ではないかと疑われ、半年間にわたり演奏を禁じられたこともあった。入院中の野田さんは、リストカットするなどし、大学も中退してしまう。

 ■「あなたのままで」

 転機は22歳の時、自ら望んで実現したウィーン国立大学への短期留学中のことだった。過呼吸発作で病院に運ばれ、そこで初めて、広汎性発達障害と診断されたのだ。帰国後の検査でも同様の診断が下され、それまで野田さんを苦しめてきたコミュニケーション能力の欠如が、生まれつきの障害だったことが判明。ようやく適切な対策が考えられるようになった。

 当時、ピアノ指導を受けていた宮崎国際大の田中幸子教授の一言も、野田さんの生き方を変えたという。

 「あなたは、あなたのままでいいのよ」-

 その後も自宅2階から発作的に飛び降りて右足が不自由になったり、左耳で低音が聞き取れない突発性難聴になったりと、新たな障害に見舞われるが、野田さんのピアノへの情熱は変わらない。平成18年に宮崎日日新聞社主催の宮日音楽コンクールでグランプリを受賞、21年のローゼンストック国際ピアノコンクールで奨励賞を受賞するなど活躍の場を広げた。

 ■「娘を誇りに思う」

 野田さんのピアノは、語りかけるような音色が持ち味。それが東京の音楽関係者の耳にとまり、実現したのが今回のリサイタルだ。

 数々の苦難を乗り越え、ようやく新たな一歩を踏み出す背景には、野田さんと一緒に悩み、支えてきた家族の存在がある。父親の福徳さん(67)はリサイタルを前に、「回り道をしながらもここまできた娘を誇りに思う。王子ホールの聴衆のレベルは高いので、それに見合った演奏をしてほしい」と話す。

 野田さんは今、リサイタルに向けて「寝るときと食事のとき以外は練習している」というほど、ピアノ漬けの毎日だ。

 「私のピアノで、誰かが笑顔になってくれるのが一番うれしい。みんなにニコニコしてもらえるようなリサイタルにしたい」と話している。

 チケットは全席指定の2800円で、チケットぴあなどで発売。

 問い合わせはサンライズプロモーション東京(電)0570・00・3337。