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【Faceちば人物記】市原の老舗問屋「人形の鯉徳」3代目店主・加藤秀徳さん(40)

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【Faceちば人物記】
市原の老舗問屋「人形の鯉徳」3代目店主・加藤秀徳さん(40)

 ■メード・イン・ジャパンの伝統残したい

 重厚な甲冑や色鮮やかなこいのぼりが広がる店内。創業約90年を誇る県内でも老舗のひな人形、五月人形問屋「人形の鯉徳」(市原市姉崎)は端午の節句の5月5日を前に大忙しだ。業界全体が苦戦を強いられる中、3代目店主の加藤秀徳さん(40)はインターネットの活用や新商品の開発を進め、日本の伝統文化を残すために奔走しており、「メード・イン・ジャパンの伝統を、後世に残す手助けがしたい」と語る。

 「節句人形は親から子供に贈るお守りで、家族のつながりを表すもの。意味なく昔から続いているのでなく、そこには大事なメッセージがある。その伝統をつないでいきたい」。同店は昭和3年ごろ、祖父で初代店主の徳蔵さんが創業。徳蔵さんは店主の傍ら、こいのぼり職人として下書きなしで一気に書き上げる「上総鯉のぼり」を90歳で亡くなるまで製作し、昭和61年に県の指定伝統工芸士に、平成13年には県の名工に選出されたという。店名も「こいのぼり名人の徳さん」という呼び名からつけられた。

 その姿を見て育ち、慣れ親しんできた伝統工芸の業界に足を踏み入れ26歳で店を継いだが、待っていたのは不遇の時代だった。少子化に加えて若者の関心が伝統工芸から離れ、節句人形が売れ悩む。市内では同店以外の専門店は姿を消したという。

 そんな中、秀徳さんを支えたのは、職人らの姿だった。ただ実直に質にこだわり手を動かす姿は、子供の頃からすぐそばで見てきた憧れの背中。「職人さんが引き継いできた伝統を終わらせたくない」

 職人や作品の魅力を正しく伝えられるよう、人形販売の専門家として認定する日本人形協会の「節句人形アドバイザー」の資格に挑戦し、21年の第1回試験に合格。人形に込められた技術や時代考証などの“物語”を伝えられるアドバイザーを目指す。「知られていない職人の世界を伝えることで、作品や伝統に興味を持ってもらいたい」

 新商品の開発にも駆け回った。初めは失敗が続きヒット商品に恵まれず、職人と衝突した日もあった。だが、店を継いで約10年後、大多喜城の城主で県ゆかりの戦国時代の英雄・本多忠勝らに焦点を当て、資料や文献を調べ尽くして細部まで再現させた五月人形シリーズ「房総のサムライ」をプロデュース。県内の職人と手がけた作品は、販売を開始した約5年前から年間30セット売れており、同店の人気作となっている。

 苦難を強いられた“時代の流れ”も逆に追い風に。ネットの普及や流通の拡大は遠方からの注文や配送を可能にし、「努力すれば世界に手が届くようになった」。今年3月には同店専門のオンラインショップを開設。商品一つ一つの時代背景や細部のこだわりを紹介し、そのマニアックぶりにファンからじわじわと評判を集めている。

 「昔のものは時代の流れの中で消えてしまうものかもしれないが、その流れに逆らってでも、先人たちが何世代にもわたり作ってきたものを途絶えさせたくない」。現在は、全国を行脚して探し集めたさまざまな伝統工芸品も店頭に並べ、オンラインショップでも披露している。「新しい価値観を武器にして、次の世代に残していきたい」 (中辻健太郎)

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【プロフィル】加藤秀徳

 かとう・ひでのり 「人形の鯉徳」3代目店主。大学を卒業後、東京都内で出版関係の業界に進んだが、結婚を機に帰郷し店を継いだ。息子が2人。「4代目を継ぐかは本人たち次第」。趣味は美術館巡りや旅行で、「仕事につながるような見聞を広めるのが好き」。