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【震災5年】復旧・復興の現在地(2)千葉市、大半が液状化対策めど立たず

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【震災5年】
復旧・復興の現在地(2)千葉市、大半が液状化対策めど立たず

 東日本大震災で1906戸の液状化に見舞われた千葉市。このうち9割以上の1810戸が被災した美浜区では、浦安市の「格子状地中壁工法」とは異なり、地下水をくみ上げる「地下水位低下工法」による対策工事が先月に始まった。

 対象地区は、工事を進める要件である「地権者の3分の2以上」の同意に至った磯辺4丁目(260戸)。隣接の同3丁目(480戸)でも来年度中に工事が始まる。同工法の1世帯当たりの負担額は、30年間で12万7千円程度(4丁目)。地権者の費用負担が少ないのが、格子状地中壁工法と大きく異なる点だ。

 だが、地質調査の結果、地下水位低下工法は両地区以外ではできないことが判明。ほかの選択肢は、現状では格子状地中壁工法しかない。実施する場合、浦安市と同様に地権者全員の同意が必要となることに加え、市と国の補助金を使ってもなお「数百万円以上」という自己負担金が、被災者に重くのしかかる。

 両地区を除く1千戸以上の大半で地域ぐるみでの対策が検討されているが、いずれも今後の対策のめどは立っていない。一部地区では住民間の話し合いも開かれず、「諦めムードが漂っている」と評する住民もいる。格子状地中壁工法を実施した場合の見積もりを市に依頼したが、「全戸の同意が得られていない」として断られた地区もあったという。

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 磯辺8丁目の前自治会長、近藤達也さん(77)方の周辺には、「補助金を活用し費用負担ゼロで地盤改良」といった民間業者のチラシがよく入るという。

 「補助金」とは、国の支援制度が適用されない世帯を対象とした、県独自の「液状化等被害住宅再建支援制度」を指す。液状化で家屋が半壊した世帯が地盤を復旧させる場合などに、100万円まで補助するというものだ。

 23年9月時点での国土交通省のまとめでは、液状化被害を受けた住家は県内で1万8674戸に及ぶ。県は昨年度末までに、同制度で約4820戸に対して計約34億9千万円の補助金を出した。

 「100万円の補助金だけで工事はまかなえるから自己負担はゼロだと。だが、本当にそれだけで安全が保証されるのか」。近藤さんが慎重になる一方で、チラシを見て工事を依頼する住民もいる。「気持ちはよく分かる。ただ、そうなると地区でまとまった対策を行うことは、ますます難しくなってしまう」

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 海に近い磯辺地区は震災時、道路の継ぎ目から水が吹き出す被害もあった。すでに対策を諦め、転居した住民も多い。

 磯辺7丁目西自治会の藤岡民良会長(80)は「『なるようになる』と冗談を言ったりもするが、いつか大きな地震があるかもしれないと思うと不安だ。私たちは地盤に関しては素人で、数字を挙げられても分からない部分が多い。何か安くて安全な、新しい工法が出ることに期待している」と心情を吐露した。

 近藤さんの自宅は傾いたままだ。約5年が過ぎ、震災直後とは状況も心境も変わってきているという。

 「傾いていても住めないことはない。震災直後に比べてとても静かに過ごしている。子供たちは将来この家には住まないと言っているし、今さら無理に修理しなくてもいい」(林修太郎)

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【用語解説】地下水位低下工法

 地下水をくみ上げるなどして地盤を強化する液状化対策工事。実施後はくみ上げポンプなどの維持管理費が必要となる。県内では我孫子市が、布佐東部地区の再液状化対策事業を同工法で行うことを検討したが、住民の3分の2の同意が得られず断念した。

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【用語解説】格子状地中壁工法

 宅地の道路や境界などの土中にセメント材といった強化材を格子状に埋め込み、地盤を強化する液状化対策工事。浦安市が採用している。同市の場合、地区住民の平均負担額が400万円に達するケースもあるなど負担が大きく、合意形成が難しいという課題がある。