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九大発ベンチャー、有機EL市場へ 高性能・低コストの第3世代技術

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九大発ベンチャー、有機EL市場へ 高性能・低コストの第3世代技術

第3世代有機ELの実用化に向けて連携する九州大の安達千波矢教授(右から3番目)や行政関係者ら 第3世代有機ELの実用化に向けて連携する九州大の安達千波矢教授(右から3番目)や行政関係者ら

 九州大学は25日、テレビやスマートフォンのディスプレーとして需要が拡大する「有機EL」に関して、同大学の技術を活用したベンチャー企業が、平成30年の市場進出を目指すと発表した。有機ELディスプレーは薄く、曲げることも可能で、さまざまな応用が期待されるが、世界市場は韓国企業に席巻されている。九大発ベンチャーは高性能と低コストを両立させた第3世代技術で成長を目指す。

 「有機ELの材料開発は、世界中の大学や民間企業が取り組んでいる。だが、第3世代のコアになる特許は九大が持っている」

 九大の有機EL研究を率いる工学研究院の安達千波矢(ちはや)教授は、こう自信を見せた。

 有機ELディスプレーは、電圧をかけると発光する有機物質を使う技術。物質そのものが光ることから、バックライトが不要で、より薄く作ることができる。

 ただ、実用化した第2世代までは、イリジウムなどレアメタル(希少金属)を使うこともあり、液晶に比べコストが高い。日本企業は次々と、事業縮小や撤退を決めた。

 この結果、韓国政府の後押しなどもあり、巨額投資に踏み切ったサムスン電子が、有機ELパネルでは9割前後の圧倒的なシェアを持つという統計もある。

 安達氏らの研究チームは、レアメタルを使わない発光に成功し、特許を取得した。材料原価は、イリジウムを使った場合の10分の1以下ですむという。

 九大は関連技術を合わせて50余りの特許を、ベンチャー企業「Kyulux(キューラックス)」(福岡市西区)に移管する契約を25日までに結んだ。同社はこの特許を使い、発光材料の製造や販売を、独占して行える。

 資金面での支援も進む。西日本シティ銀行などが出資するベンチャーファンド「QBキャピタル」や、国立研究開発法人「科学技術振興機構(JST)」などから、計15億円を得るめどが立ったという。

 九大が視野に入れるのは、平成30(2018)年に米アップルが発売する予定のスマートフォンだ。ディスプレーに有機ELを採用するとみられている。

 「アップルの製品に、われわれの技術が使われることを想定している。知財を武器に優位に立つ」

 キューラックス代表取締役CTO(最高技術責任者)の安達淳治氏は、こう語った。

 有機ELは、紙のように折り曲げ可能なディスプレーを作ることもできる。スマホだけでなく、服や眼鏡、コンタクトレンズ、腕時計などウエアラブル(身に着ける)端末や、車のフロントガラスに情報を表示するようなことも可能だ。

 2018年の有機EL市場は、11年の7倍に達するとの試算もある。

 九大の技術が注目される以前から、福岡市は支援の方策を探っていた。

 平成17年ごろ、市の産業支援の担当者は、安達(千波矢)教授と意見交換を重ねた。

 「大学と民間企業がともに研究すれば、最先端技術をいち早く商品化できる」

 思いは一致し、20年、工学研究院のある九大伊都キャンパス近くに、大学や企業関係者が集う「産学連携交流センター」を設置した。

 21年、安達教授は内閣府の最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の対象に選ばれた。560件以上の申請から選定された背景に、福岡市の事務的な支援もあった。

 「九大が誇る特許を武器に、新時代を開いてほしい。成長性のある企業とのマッチングや規制緩和など、今後も市としてできる支援をする」

 高島宗一郎市長も、こう期待をにじませた。

 伊都キャンパス周辺は、福岡県や九大が運用する「有機光エレクトロニクス実用化開発センター」もあり、国内有機EL研究の拠点となっている。

 安達教授は「伊都キャンパス周辺を、最先端の企業や人が集まるシリコンバレーのようにしたい」と語った。

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【用語解説】有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)

 薄い膜状にした有機物質に電圧をかけ、発光させる技術。1950年代に基礎研究が始まり、90年代以降、ディスプレーとして実用化が始まった。液晶と違いバックライトなど光源が不要なことから、より薄いディスプレーが可能で、消費電力も少ない。