産経ニュース

米国在住・臨床心理博士 美甘さん 父の被爆体験と信条を出版 広島

地方 地方

記事詳細

更新


米国在住・臨床心理博士 美甘さん 父の被爆体験と信条を出版 広島

 広島市出身で米・サンディエゴ市在住の臨床心理博士、美甘(みかも)章子さん(52)が、父親の進示さん(88)=広島市東区光町=の被爆体験と生きざまをつづった図書「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」(講談社エディトリアル)が10日、全国発売される。「敵を恨むのではなく、理解と協力をつくり出して世界平和に貢献しなさい」。進示さんの言葉に、章子さんは大きな影響を受けたという。

 章子さんは被爆者の両親のもとで育ち、広島大学教育学部を卒業。渡米して臨床心理学を学んだ。平成7年からカリフォルニア州サンティエゴ市で臨床心理博士として活躍する一方、平和団体の代表を務め、8月6日の広島での平和記念式典に合わせて現地でも式典を催し、原爆死没者を慰霊している。

 章子さんが図書の出版を決意したのは平成23年7月。留学していたフランスの国際ビジネス学校で、進示さんの被爆体験や生きざまを語ったところ、多くのクラスメートが感動したことがきっかけとなった。昨年7月、米国で英語版を出版したのに続き、今回は日本語版が実現した。

 図書は224ページで、被爆当時の進示さんの様子を書いた「青い空、赤い空」から「受け継がれるもの」まで17章で構成している。

 進示さんは爆心地から1・2キロの自宅の屋根の上で、建物疎開の作業中に被爆した。崩れ落ちた家屋の下敷きになったが、一緒にいた父親に血まみれ状態で助け出された。激痛で「もう死なして」と訴える進示さんに、「生きとりさえすりゃ、絶対に治る。頑張れ」と励まし続けた父親。その父親とは5日後に別れ、その後会うことはなかった。岡山県で病気療養中だった母親も1カ月後に息を引き取り、天涯孤独となった。その後、章子さんの母親となる被爆者の女性と結婚し、章子さんら3人の子供を育てた。

 進示さんは常に前向きだった。「原爆を落としたアメリカ人を憎むのは間違いだ。悪いのは戦争。異なる背景や信条の人たちが、お互いに理解と協力ができるよう人の助けになりなさい」。そう諭し続けたという。

 進示さんにとって唯一の父親の形見は懐中時計だった。原爆投下時刻の午前8時15分を示す懐中時計。それが盗難に遭ったときも「何かなくしたときは、何かを得るときだ」と章子さんに伝えた。心の底から誇りに思う父親の言葉を心に刻んでいるという。