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【正論2月号】朝鮮半島危機と関係していた!ロシアがこの隙に北方領土を軍事強化 小泉悠

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【正論2月号】
朝鮮半島危機と関係していた!ロシアがこの隙に北方領土を軍事強化 小泉悠

大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」型の第2回試射=2017年7月(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」型の第2回試射=2017年7月(朝鮮中央通信=朝鮮通信)

 これについては、ロシアが火星14号の第二段目を観測しそこなったのではないか(第一段目の到達高度だけを公表しているのではないか)という見方もある。だが、ロシア側が観測に使用したのはイルクーツクに配備された新鋭レーダー「ヴォロネジ-M」であり、弾道ミサイルの第二段ブースターのような大きなものを見落とすことは考え難い。北朝鮮はまだICBM保有という「レッド・ライン」を超えていないのだ、というロシア流の北朝鮮擁護であったと考えたほうがよいだろう。ロシアの思惑は何か

 それでは、ロシアは結局のところ、北朝鮮をどうしようと考えているのだろうか。 

 表向き、ロシアは北朝鮮情勢に関して「調停者」として振る舞おうとしている。火星14号が発射された後の7月15日、プーチン大統領が中国の習近平国家主席とモスクワで会談し、北朝鮮が核・ミサイル開発を凍結する代わりに米韓も合同軍事演習を行わないという「ダブル・フリーズ」提案を行ったことはその代表例である。  

 ただ、ロシアや中国の調停はほとんど成果を生んでいない。ダブル・フリーズ提案の後も北朝鮮は初の水爆実験を供し、より強力なICBM火星15号の発射実験にも成功した。米韓も大規模軍事演習を繰り返しており、「圧力」路線を緩める気配はない。 

 ロシア自身も、自国が「調停者」たりえないことは理解している筈である。そもそも北朝鮮に対して強力な政治的・経済的影響力を持つ中国でさえ北朝鮮の核・ミサイル開発を止められないのだ。  

 軍事的危機が朝鮮半島有事に発展するとなれば尚更で、ごく少数の極東ロシア軍にできることは極めて少ないだろう。米国が北朝鮮に対する軍事オプションを発動した場合、ロシアが軍事力で北朝鮮を守るというシナリオはまず考えられない。これは米国がシリアに対して巡航ミサイル攻撃を行った場合を見ても明らかである。いざ米国が力の行使を決意すると、ロシアは「ロシアの防空部隊はロシア軍基地を守るために存在するのであり、シリアの空はシリア人が守らなければならない」として傍観を決め込んだ。  

 もうひとつの可能性としては、北朝鮮の体制崩壊が避けられなくなった際、中露が共同で北朝鮮に介入するというシナリオも考えられないではない。ただ、ロシアが北朝鮮に関して有する利権と実際の介入能力を考えれば、やはり現実味は薄いだろう。このような非常事態シナリオにおいてロシアが果たしうるのは、これまでの朝鮮半島における軍事的危機と同様、中国寄り中立というところに留まるのではないだろうか。  であるならば、ロシアは何故北朝鮮への傾斜を強めるのか。特に2017年に入ってから、かつてなく朝鮮半島情勢で大きな存在感を見せようとしたのは何故か。 

 もっとも通りがよいのは、一種の機会主義であるという理解だろう。

 春の米韓合同軍事演習に北朝鮮が反発してミサイル危機が起きるというのは半ば「恒例行事」のようなものであったが、2017年の場合は事情が異なっていた。新たに成立したトランプ政権が北朝鮮に対して極めて強硬な姿勢を示したことに加え、北朝鮮のミサイルが実際にグアムや米本土に届きかねない性能を実証したこと、さらには初の水爆実験に成功したことで、北朝鮮を核保有国として認めるべきかどうか、あるいは米本土の防衛をいかにすべきかなどを真剣に検討する必要性が生じたのである。いうなればグローバル安全保障における北朝鮮問題の比重が大きく高まった訳であるが、ロシアが同問題で存在感を高められれば、アジア太平洋地域や米国との関係における一定の影響力となることが期待できる。少なくとも今後の東アジア秩序を考える上で、従来のようにロシアを等閑視するのが難しくなってきたことはたしかであろう。

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