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【モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら】〈12〉そんなに慌ててどこへゆく?

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【モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら】
〈12〉そんなに慌ててどこへゆく?

【座間遺体遺棄事件】9人の遺体が発見された白石隆浩容疑者が住んでいたアパートの近くには、たくさんの花束や飲み物などが供えられていた=7日午前、神奈川県座間市(寺河内美奈撮影) 【座間遺体遺棄事件】9人の遺体が発見された白石隆浩容疑者が住んでいたアパートの近くには、たくさんの花束や飲み物などが供えられていた=7日午前、神奈川県座間市(寺河内美奈撮影)

 さて、モンテーニュである。第1巻第20章「哲学するのはいかに死すべきかを学ぶためであること」において、まだ39歳の彼は死をめぐりストア主義的な厳しい言葉を連ねている。《もし人生を利用することができなかったのならば、それがお前たちに無益のものであったのならば、それを失うことが何であろう。更にながらえてまたどうしようというのか》《他人のために席をゆずるがよい。かつてお前たちがこれを譲られたように》といった調子だ。

 さらに第2巻第3章「ケア島の習慣」では、《最も自ら欲した死こそ、最も美しい死である…もし我々に死の自由がないならば、生きるということはむしろ屈従である》と自殺を肯定する。ただし、《頑丈なお墓の下の穴のなかに逃げこんで運命の攻撃を避けるのは、卑怯(ひきょう)がさせる業(わざ)であって決して勇気がすることではない》と、人生の困難から逃げるための自殺を卑怯と断じている。

 芥川龍之介や太宰治など若くして自殺した作家の言葉が麻薬のように若者の心を侵すように、モンテーニュの言葉も魅力的だ。ところが、40代半ばから結石の発作に悩まされ、死と隣り合わせの宗教戦争の時代を生き抜いた晩年に、彼の考えは大きく変化する。第1巻第20章にはこう書き加える。《お前たちがこの世にある間は、ただ生きることに意を用いよ》

 平凡だが、これこそが酸いも甘いもかみ分けた男の腹の底から出た言葉なのだ。これに福島さんの「あわてなくても、いずれ、みんな死にますから」という言葉を重ねると、より味わいが深くなる。

※モンテーニュの引用は全て関根秀雄訳『モンテーニュ随想録』(国書刊行会)によった。=隔週掲載(文化部 桑原聡)

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