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【至誠の人 揖取素彦物語(75)】中村紀雄 廃娼を…夫に完遂促す

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【至誠の人 揖取素彦物語(75)】
中村紀雄 廃娼を…夫に完遂促す

遺言

 東京・青山墓地の寿の墓誌には、楫取の切々とした思いが刻まれている。

 「君の兄吉田義卿、罪を幕府に得て杉氏に幽せらる。日々親戚(しんせき)の子弟を集め尊攘の義を講ず。君側に在りよくその説を聞く。甲子の変で余、獄に下る。姻戚禍を畏れて敢えて君を存問するなし。然れども独立して余の為す所を信ず。群馬に遷る。君体質薄弱にして久しく胸膜を病む。医曰く。これ、若年苦神のいたす所なりと。蓐(じょく)にあること五年、本年一月三十日没す。享年四十三歳。法諡(ほうし)を心月という」

 蓐は病床、法諡は戒名のことである。

 楫取は最後に記す。

 「あなたは、もう二度と立ち上がることができないとわかった時、子どもの嫁を集めて後のことを指図した。亡くなる前の日、体や髪をきれいに洗い、きれいな衣服に改めた。病が非常に重くなっても言葉ははっきりしていた。平常と少しも変わりはない。そして、きちんとすわったまま亡くなった。ああ、非常に悲しいことである」

 楫取は、妻の壮絶な最期と自らの心を石に刻んだのだ。

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