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【至誠の人 揖取素彦物語(72)】中村紀雄 「仏法不毛の地に光を」

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【至誠の人 揖取素彦物語(72)】
中村紀雄 「仏法不毛の地に光を」

 寿は繰り返し読み、手紙の上に涙を落とし、手紙を抱きしめた。そして、はっと思うことがあった。

 「そうだ、この地で、あの法話の輪をつくろう」

 この群馬の地は仏法不毛に近い。民情が荒いと言われるのも、ひとつにはそれが原因ではないか。特に真宗の拠点が少ない。二条窪でやったように、この地で真宗を広めることが私の使命だ。それによって夫の仕事を助けることも出来る。寿は強く思った。

 楫取に相談すると、すぐに賛成した。

 「それは良いことに気付いた。もとより賛成だ。力を貸すから思うようにやってみなさい」

 寿は動いた。本願寺の執行長・島地黙雷(もくらい)を通し、寿の悲願は宗王明如(みょうにょ)に伝えられた。教勢が新たな地で発展することに明如に異存がある筈はない。妙好人(浄土真宗に深く帰依している人の尊称)寿の実績を知る明如は大賛成であった。

 「良いことでございます。拙僧も及ばずながらお力をお貸ししましょう」

 かくして前橋に本願寺出張所が設立された。明治13年4月のことである。これが、前橋の清光寺の開基である。

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