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【月刊正論】政府も悩む皇室「パンドラの箱」 退位・譲位の制度化がはらむ皇室の尊厳を脅かす危険性とは… 麗澤大教授・八木秀次

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【月刊正論】
政府も悩む皇室「パンドラの箱」 退位・譲位の制度化がはらむ皇室の尊厳を脅かす危険性とは… 麗澤大教授・八木秀次

象徴としての務めについてのお気持ちを表明される天皇陛下=8月7日、皇居・御所応接室(宮内庁提供) 象徴としての務めについてのお気持ちを表明される天皇陛下=8月7日、皇居・御所応接室(宮内庁提供)

※この記事は月刊正論10月号から転載しました。ご購入はこちらへ。

国民が抱いた漠とした不安…

 天皇陛下がご生前での退位のご意向をにじませになったビデオメッセージが放映された8月8日午後3時、街ではビルのスクリーンに映し出された陛下のお言葉に若者が足を止めて静かに耳を傾ける姿が見られた。私自身は同時刻、NHKのラジオ第1放送の特別番組に生出演していたが、スタジオのテレビには次々にそのような街の光景が映し出されていった。

 恐らく普段は天皇や皇室について強く意識することもない人たちだろう。彼らは一様に不安そうな顔をしているようだった。その後の世論調査では8割~9割の人々が陛下の「生前退位」に賛成している。

 私には、これらの数字もご高齢でご病気を抱えながらもご公務を誠実になさってこられた陛下に対して、もうそろそろ休んで頂いたらどうかという共感や同情の念とともに、自らの存在根拠が揺らいでいる人々の不安の表れのようにも思えた。私は自ずと昭和天皇がご病気で明日をも知れない状態であった頃、連日、皇居前に何万人という人が集まって、ご快癒を祈念する記帳をした姿を思い浮かべた。自分自身も何万人かの一人であったことを思い出す。

 「我帝室は日本人民の精神を収攬するの中心なり」--。

 こう、長編評論『帝室論』〔1882年、『福澤諭吉選集第6巻』(岩波書店)所収〕で述べたのは福澤諭吉だった。『帝室論』は陛下が皇太子の時代に、東宮御教育常務参与に就任した慶應義塾元塾長の小泉信三とともに、戦後の新しい時代の帝王学を学ぶべく輪読した数冊の書物の内の一つであった。

 福澤は『帝室論』を書くに当たって、イギリスのジャーナリスト、ウォルター・バジョットの『イギリス憲政論』(“The English Constitution”、1867年)を下敷きにした。バジョットのこの本はイギリスの立憲君主制の在り方を描いたものだが、GHQ民政局が現行憲法の天皇条項の原案を起草するに当たっての種本でもある。天皇を「国民統合の象徴」とする憲法第1条の規定はバジョットが使った文言と理論そのままであった。

 福澤がいう「日本人民の精神を収攬するの中心」とは、バジョットの「国民統合の象徴」を福澤流に表現したものだった。陛下は、政治的な対立を超越するがゆえに「国民統合の象徴」たり得るという象徴天皇制度の在り方を『帝室論』を通じて学ばれた。その『帝室論』がいう、日本国民の精神を収攬する「中心」が、もし揺らぐようなことがあれば、国民は不安定になる。

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