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【はたらくいきもの】山にやさしい エコエンジン 馬搬、復活 長野・松本市

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【はたらくいきもの】山にやさしい エコエンジン 馬搬、復活 長野・松本市

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青空の下で馬搬に従事する元競走馬のヤマト。12歳の今も元気いっぱいだ =長野県松本市(恵守乾撮影) 青空の下で馬搬に従事する元競走馬のヤマト。12歳の今も元気いっぱいだ =長野県松本市(恵守乾撮影)
1本約200キロの丸太を引きながら斜面を進むヤマト =長野県松本市(恵守乾撮影)
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1本約200キロの丸太を引きながら斜面を進むヤマト =長野県松本市(恵守乾撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 かつて、トラックや貨物列車がなかった時代、大きく重たい物資を運ぶ馬は、人間の“相棒”として働いていた。林業の仕事場でも、伐採した樹木を運ぶのは馬の役目で「馬搬(ばはん)」と呼ばれた。軽トラすら入れない険しい山中でも馬なら大丈夫。機械化の進む中、東北や北海道では今でも馬搬が受け継がれ、たくましい馬が「どっこい」と呼ばれる馬具を身につけ丸太を運んでいる。(写真報道局 恵守乾)

気は優しくて力持ち。体重約1トンと、たくましい体のヤマト =長野県松本市(恵守乾撮影)
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気は優しくて力持ち。体重約1トンと、たくましい体のヤマト =長野県松本市(恵守乾撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 長野県松本市の「柳沢林業」では、12歳の雄馬「ヤマト」1頭が、馬搬担当の“社員”として働いている。馬の年齢は人の4倍という説があり、それでいえばヤマトは50歳くらいだろうか。

 同社で馬搬を始めたのは、松の木が一気に枯れる「松枯れ」という病気がきっかけだったという。社長の原薫さん(44)は、「山の中で枯れてしまった1本だけの大きな松でも、馬なら運び出せると思った」と話す。

 馬搬のメリットはエコと低コスト。重機が走る作業用の道路を整備するのは、費用がかかり山にもダメージを与える。馬なら自然にもやさしく、1本の木材でもOKだ。

 平成28年、知人を介して北海道の「ばんえい競馬」で活躍していた競走馬のヤマトを譲り受けた。

馬方の犬飼哲平さんに顔を寄せるヤマト。日々の世話で信頼関係が築かれた =長野県松本市(恵守乾撮影)
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馬方の犬飼哲平さんに顔を寄せるヤマト。日々の世話で信頼関係が築かれた =長野県松本市(恵守乾撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 ばんえい競馬は、「ばん馬」と呼ばれる競走馬が、重りをのせた1トン近い鉄ソリを引き、力と速さを競うレース。ばん馬の仲間はサラブレッドの2倍の1トン近い体重があり、北海道開拓時代には、農耕や荷役に活躍した。

 ヤマトの訓練を担ったのが犬飼哲平さん(43)。半年をかけて馬搬の技術を仕込み、29年3月に現場デビュー。今もヤマトとともに馬搬に従事する。

 「利口な馬ですから。最初は『なんだてめえ!』、という感じでバカにされました」と笑う。

 「ゴー、ハイッ!」、犬飼さんのかけ声が山に響くと、ヤマトが引く1本約200キロのカラマツがゆっくりと滑り出す。行く手を阻む急な斜面も激しく息を切らしながらもずんずんと登り切る。

 犬飼さんも手綱を手にヤマトとともに山を駆けて汗を流し、昼食も一緒だ。「重機の通った跡からはなかなか植物は生えないが、馬が通った跡だとすぐに植物が生えてくる。馬糞(ばふん)も良い肥料になる」

 原社長は「ヤマトには山と人をつなぐ存在、人と人をつなぐ存在になってもらいたい」という。信州の里山によみがえった“はたらく1馬力”が、山仕事に新たな風を吹き込んだ。

やさしい眼差しのヤマト =長野県松本市(恵守乾撮影)
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やさしい眼差しのヤマト =長野県松本市(恵守乾撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 AIやロボットなどの技術革新で働き方が変わっていく現代に、「いきもの」が新たな存在感をもって活躍する現場を取材します。



 【用語解説】馬搬(ばはん)
 馬を使って山から木材を運ぶ作業のこと。地駄引(じだひ)きとも呼ばれる。かつては全国各地で見られた。作業用の道を開設する必要が無く、山林へのダメージの少ない作業方法とされる。

 

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