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悲劇は裁判で増幅された 大川小【東日本大震災パノラマ】Vol.450

東日本大震災

悲劇は裁判で増幅された 大川小【東日本大震災パノラマ】Vol.450

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悲劇は裁判で増幅された 大川小【東日本大震災パノラマ】Vol.450

 3月11日。

 宮城県石巻市の市立大川小。

 津波の爪痕が生々しく残る校舎に黒服の人々が集まる。

 東日本大震災の七回忌法要。震災6年を迎えた。

 児童の遺族。教員の遺族。

 両者は言葉を交わさない。

 昨年10月30日。

 石巻市議会臨時会。

 「子供を返せ!」

 議場に傍聴者の女性の叫び声が響く。3年生の一人息子を亡くしている。

 議会は市に敗訴を言い渡した裁判所の判決を不服として控訴する市の議案を可決した。

■   ■

 大川小の悲劇。

 児童74人と教職員10人が死亡・行方不明となった。教育行政史上、最大の惨事といわれる。

 「教員は大津波の襲来を予見しながら、児童を安全な裏山に避難させず、避難場所として不適当な河川堤防に引率した」

 判決は教員の過失を認めた。

 判決を報じるテレビニュースを見て、教員の遺族の一人は動悸(どうき)を抑えられなかった。

 〈学校・先生を断罪!!〉

 勝訴した原告の親の掲げる横断幕がテレビ画面を通じて目に飛び込む。

 めまいがした。吐き気も。次の日になっても治まらず、医者から薬をもらった。

 「先生に殺されたようなものだ」

 教員の遺族は痛言を浴び、肩身の狭い思いをしている。同僚の遺族は身内に代わって受け持ちの子の家に焼香に行き、門前払いされた。肩をすくめ、息を殺して暮らす。

 自宅の仏壇に目をやる。

 大川小の教壇に立った身内は黒縁の写真に納まっている。死者は児童だけではない。

 教員の遺族として子供たちの命を守れなかった責任は感じている。それでも、あの極限状態で最善を尽くしたと信じたい。

 教員は当事者であって当事者でない。

 裁判で被告は石巻市と宮城県だ。教員は裁判上「訴外者」にすぎない。主体的に関与できず、身内の代弁をしようとしても限りがある。1審で教員の遺族が法廷の証言台に立つことはなかった。訴外者は疎外感を味わう。

■   ■

 裁判に縁のない一般人なら普通「裁判は万能」と思う。「裁判に持ち込めば全てが解決できる」と。

 裁判の当事者になった途端、それが幻想だったことを知る。

 原告児童の遺族もそうだった。

 親は裁判に事案の全容解明を求めた。

 なぜ先生は裏山でなく、川に引率したのか。どうして校庭に長時間待機させたのか。

 最も知りたいことがそれまでの市教委との交渉、検証委員会の調査で解き明かされなかった。ストレスがたまる。頼みの綱として法的手段に打って出た。

 だが、裁判の争点は津波の襲来を教員が予見できたかどうかに絞られた。親の関心の的は置き去りにされ、判決でも明らかにされなかった。

 勝訴してももやもやが晴れない。達成感がない。

 「結局、子は帰ってこない」

 やるせない思いだけが募った。

 車を購入したら「賠償金で買ったんだろ」。外で酒を飲んだら「賠償金で飲む一杯はさぞかしうまいだろうな」

 親もつらい思いをしている。

■   ■

 大川小の裁判は関わる人すべてを苦しませている。

 ある2者を除いては。

 石巻市と宮城県は傷を負っていない。

 市のハザードマップも県の地震被害想定調査も大川小を津波浸水域から外している。それどころか避難場所に指定したぐらいだ。教員対象の防災指導も型通りにこなしているだけの印象を拭えない。行政の防災対策としてはどれもお粗末だった。

 しかし、判決では「予見可能性がなかった」との一点で不問にされた。市と県は教員の雇い主という立場で賠償義務が生じただけ。防災行政の当事者としてはおとがめなしだった。

 判決は責任の一切を教員に負わせた。行政の落ち度はゼロで、教員個人がすべてを背負う。責任配分のアンバランスさに違和感を覚える。

 その無傷な市と県が控訴した。審理は2審に移る。

 「逆転勝訴で身内の汚名を晴らしたい」

 控訴によって救われた教員の遺族は少なくない。

 一方で、この苦しみから早く解放されたいと控訴に消極的な遺族もいる。

 予言してもいい。

 判決がひっくり返る可能性は小さい。

 何の落ち度もないこれだけ多くの子が学校管理下で落命したのだ。裁判官も人の子。この重大な結果を前に、誰の責任も問わない判決文を書ける度胸の持ち主はそういない。

 大川小の悲劇は裁判になって増幅された。あれだけの惨事を引き継ぐ裁判なのだから、やむを得ない面はあるのだろうが、あまりにたくさんの人が傷ついている。

 和解でもいい。当事者双方が歩み寄れる着地点が見いだせるのなら、おしまいにした方がいい。(文・東北特派員 伊藤寿行)
(2011年3月21日-2017年2月15日、植村光貴撮影)

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