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【新・仕事の周辺】清武英利(ノンフィクション作家) 資産家たちの危うい人生

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【新・仕事の周辺】
清武英利(ノンフィクション作家) 資産家たちの危うい人生

 しばらくして、友人を通じ、日本の身内探しを私に頼んできた。といって、書き手の矩(のり)を超えられない私に何ができようか。あたふたしているうちに、彼は日本大使館の世話で、植物状態となって帰国してきた。大阪の病院に面会に行くと、体中にチューブを刺してベッドに横たわっている。「わかりますか?」。話しかけても天井を凝視したままだった。「聞こえていますよ」と看護師。促されるように私は続けた。

 「あなた、私に言ったじゃないですか。『全力を尽くして長生きをせざるを得ないんだよ』って。『死んだらいろんな人間が寄ってたかって財産を取りに来る』と言いましたよね。お嬢さんが大きくなるまで頑張りましょう」

 (俺は何を言っているのか)と思ったが、白々しいこの言葉以外に思いつかなかった。娘さんのことは大丈夫ですよ、と言いたかったのだ。だが、私には居所すらわからない。施設に引き取られたと聞かされたが、確かめるすべもなかった。

 5カ月後に、彼は力尽きたという。友人によると、コンドミニアムにあった彼のベンツはどこかに消えていた。友人はもっと消えていくと言う。悲しいが、私にできることは多くない。彼らの危うい人生を書き残し、あの資産が彼女の手に渡ることを祈ることぐらいだ。

                   

【プロフィル】清武英利(きよたけ・ひでとし) 昭和25年、宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒。読売新聞東京本社編集委員などを経て平成16年から23年まで読売巨人軍球団代表。26年『しんがり 山一證券 最後の12人』で第36回講談社ノンフィクション賞、30年『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』で第2回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞。

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