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【明治の50冊】(27)福澤諭吉『福翁自伝』 希代の啓蒙家誕生の軌跡

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【明治の50冊】
(27)福澤諭吉『福翁自伝』 希代の啓蒙家誕生の軌跡

大分県中津市にある福澤諭吉旧居(国指定史跡)。福澤は19歳で長崎に遊学するまでこの家で暮らした(小野晋史撮影) 大分県中津市にある福澤諭吉旧居(国指定史跡)。福澤は19歳で長崎に遊学するまでこの家で暮らした(小野晋史撮影)

 「此方(こっち)の脳中には、源頼朝、徳川家康というような考えがあって、ソレから割出して聞いたところが、今の通りの答に驚いて、これは不思議と思うたことは今でも能(よ)く覚えている」

 日本が封建社会から文明国となる際、工場や軍艦といった科学技術の移入よりもずっと難しいのは近代的社会の構築であり、それを市民として支える自立した個人の確立である-。「一身独立して一国独立す」と説いた希代の啓蒙家、福澤がいかにして誕生したか。その一部始終を、よくできた小説のような味わいで読み進められる。

 福澤の著作としてはまれな口語体で、刊行後数十版を重ねるベストセラーに。昭和の批評家、小林秀雄は「強い己れを持ちながら、己れを現わさんとする虚栄が、まるでない」と評し、「日本人が書いた自伝中の傑作」と絶賛した(『考えるヒント』)。岩波文庫版は昭和53年の新訂版以降、66刷73万部。角川ソフィア文庫や講談社学術文庫にも収録され、今も広く読まれている。また慶応大は平成8年度から毎年、入学式で全新入生に『福翁自伝』を配布する。慶応義塾広報室は「この書を通じて創立者の生涯と思想に接し、今に引き継がれる義塾の気風を感じ取ってもらえれば」と目的を話す。

 福澤研究で知られる平山洋・静岡県立大助教は、刊行当時の時代状況に目を向けるべきだと指摘する。

 明治28年の日清戦争の勝利で、「一国の独立」はひとまず達成をみた。だがプロイセンを範とした官尊民卑の明治国家が完成するこの時期、人民の国家への依存は次第に高まりつつあった。「本書と対になる存在といえる『修業立志編』をはじめ、日清戦争後の福澤の著作はすべて『一身の独立』に関する内容。個人の独立を基盤にしない国家の独立の脆弱(ぜいじゃく)性について、福澤は不安を抱いていた」

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