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【本ナビ+1】シンガー・ソングライター丸山圭子 『ふたりぐらし』桜木紫乃著 幸せのおすそ分けいただく

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【本ナビ+1】
シンガー・ソングライター丸山圭子 『ふたりぐらし』桜木紫乃著 幸せのおすそ分けいただく

シンガー・ソングライター丸山圭子(萩原悠久人撮影) シンガー・ソングライター丸山圭子(萩原悠久人撮影)

 当たり前の日常に幸福を見いだす女心が、読むほどに伝わってきて、温かな気持ちになる珠玉の一冊。妻との収入差に引け目を感じている元映写技師の信好と、母親との確執に悩む看護師の紗弓…30代半ばの夫婦を描く10の短編が並び、1話ごとに「ふたり」の歩みがつづられる。

 物語は夫の死後、人を遠ざけてきた信好の母親の死から始まる。信好もまた、紗弓同様、母親を受け入れられないまま、別れの時を迎えた。紗弓は、信好を「ヒモ」呼ばわりする母親の心ない一言に深く傷つくなど、母親との溝を埋められない日々が続く。

 一方で、紗弓の父親に意外な秘密が浮上したり、信好と女友達の関係を紗弓が疑ったり。同僚や上司らの生きように感じることも。それぞれの一言や些細(ささい)なしぐさ、場面…作者独特の表現にはひかれるものがたくさんある。

 〈飛行機雲が加速をつけて空に滲んでいた。やがて風に負け、全体が息を吹きかけたようにかたちを失った〉

 母を亡くした信好が一人、母を見送る場面の描写は、直接死を悼む言葉を重ねるよりせつなく、美しい。

 人と関わりあうことの苦手な者同士が、互いをよりどころに生き、時の流れとともに近づいていく。

 〈隣に紗弓がいるあいだ、自分は真のかなしみには出会わずに済む気がした〉〈出会ってからはいつだって、信好が紗弓の「答え」だった〉

 こんな思いを静かに伝えられるふたりの暮らしにふれ、幸せのおすそ分けをいただいた気がする。自分に嘘をつくことなく、向き合える相手がそばにいる心地良さ…。さまざまな人との出会いから、幸福の意味を問うてみる。

 〈ゆっくり時間をかけて、夫婦になっていけばいい〉

 幸せの発露はここにありという良い言葉だ。(新潮社・1450円+税)

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