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【書評】書評家・倉本さおりが読む 『送り火』高橋弘希著 「視界の歪み」穿つラストの惨劇

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【書評】
書評家・倉本さおりが読む 『送り火』高橋弘希著 「視界の歪み」穿つラストの惨劇

『送り火』高橋弘希著(文芸春秋・1400円+税) 『送り火』高橋弘希著(文芸春秋・1400円+税)

 高橋弘希の小説は、いずれも細やかなディテールを丁寧に繊細に積み上げることで完成する。すみずみまで抑制の効いた語りに導かれ、気づけば読み手の感覚は主人公のそれとつながった状態で研ぎ澄まされていく。だが芥川賞を受賞した本作は、その極上の語りに重大な罠(わな)を潜ませる。

 主人公は、東京から津軽地方の山間に広がる小さな集落へと引っ越してきた歩。今年度限りで廃校になる中学校に転入すると、学級の中心的人物である晃が気さくに声をかけてくる。難なく輪の中に溶け込んだことに安心した歩だが、ほどなくして晃がひとりの級友にどぎつい暴力を振るっている事実を知らされるとともに、想像を絶するような陰惨な光景にのみ込まれていく。

 娯楽の限られた空間で鬱屈したエネルギーを持て余した少年たち。いちど上下関係に組み込まれると少人数ゆえに逃げ場がない。普段は朗らかに談笑しているが、「暴君」である晃がなにか思いつくたび、さっと緊張が走り、チリチリとしたきな臭さが漂う。その不穏さの象徴のひとつがオリジナルの花札遊びだ。どこかおどろおどろしい絵柄に加え、敗者には罰ゲームが用意されている。歩は手札を配る晃がイカサマしていることに気づき、一挙手一投足に細心の注意を払うが、その均衡は意外な場面で決壊する。

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