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直木賞に決まって 島本理生 手強くも希望に満ちた実感

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直木賞に決まって 島本理生 手強くも希望に満ちた実感

直木賞の受賞が決まり、笑顔で記者会見する島本理生さん=7月18日、東京都千代田区の帝国ホテル(桐山弘太撮影) 直木賞の受賞が決まり、笑顔で記者会見する島本理生さん=7月18日、東京都千代田区の帝国ホテル(桐山弘太撮影)

 7月18日の選考会で、拙著の『ファーストラヴ』(文芸春秋刊)が第159回直木三十五賞に決まった。

 これまでにも芥川賞候補は4回、直木賞候補は2回、と長年「待ち」を経験した末の、念願叶っての受賞だった。

 もともと今作は、3年前に『夏の裁断』(文芸春秋刊)という小説で4度目の芥川賞候補になったことがきっかけで生まれた。

 3年前の夕方、私はホテルのバーで担当編集者や友人と共に結果の連絡を待っていた。

 窓ガラスに水滴がついたかと思うと、そのうちに雷が鳴った。

 稲妻の走る夜空にたたずむ東京タワーが怪しくも美しく、その光景に気を取られていたら、落選したという知らせを受けた。

 当時、純文学とエンターテインメントの間で作風をどうするか揺れていた私は、残念会の席で

 「今後はエンターテインメント一本に専念します」

 と決め、その場で文芸春秋社に

 「新作の構想が一本あるので新しい担当者と打ち合わせがしたい」

 と頼んだ。

 (などと品良く書いてみたものの、実際は酔って荒れた状態で「今すぐ呼んでくれ!」くらいのことを言った気がする。今は反省している……。)

 そして急遽(きゅうきょ)、駆けつけてくれたのが今回の『ファーストラヴ』の担当編集者だった。

 そんな始まり方にもかかわらず、地方の裁判傍聴に何度も朝から一緒に通ったりして、本当に熱心に作品に付き合っていただいた。

 寝不足で朦朧(もうろう)としつつも、傍聴を終えた私が食い意地を発揮して

 「せっかく来たんだから、名物のあんこうを食べて帰りませんか?」

 と誘い、お座敷で鍋を突きながら

 「さっきの事件は結局、他殺だったのか。それとも自殺だったのか」

 という談義を交わした。疲れた体にあん肝の旨(うま)みが滲(し)みた。

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