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【書評】作家・井沢元彦が読む『教科書が教えない楠木正成』産経新聞取材班 評価変遷の謎と史実に迫る

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作家・井沢元彦が読む『教科書が教えない楠木正成』産経新聞取材班 評価変遷の謎と史実に迫る

『教科書が教えない 楠木正成』産経新聞取材班 『教科書が教えない 楠木正成』産経新聞取材班

 当たり前の話なのだが、楠木正成という歴史上の実在人物の生涯は既に過去の話だから、確定しているはずである。これから正成の生涯について新たな発見はあるかもしれないが、大筋において正成がどのように生きたかは変わりようがない。過去の事実は動かせないからだ。ところが正成の人物評価となると、いわゆる戦前と戦後では天と地ほども違う。いや、実はもっと過去にもそういうことがあった。武家社会における正成の評価は室町時代の評価と江戸時代の評価では、これまた天と地と言っていいほど違う。

 戦前は日本最大の英雄であり最も尊敬すべき人物であったのに戦後は軍国主義の象徴として批判された。また室町時代においては武家の出身でありながら天皇に味方した人間として、いわば武士世界の裏切り者とされていたのに、江戸時代は最も忠義な武士として尊敬の対象になった。

 こんなに評価が変化した歴史上の人物は日本史だけでなく世界史においても極めて稀(まれ)な存在だろう。いったいなぜそんなことになったのか?

 正成は武将としてあるいは戦略家としてきわめて有能であった。そして、こうした人物にはありがちな偏屈な性格でもなく、むしろ敵にも慕われるような徳のある人物だった。だがそれだけなら時代によって評価が「乱高下」するはずもない。そうなった理由はむしろ社会がどのように正成を「活用」するか、時代時代の価値観によって変化してきたためだろう。だが、一方で時代を通じて変わらないものもあるはずだ。

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