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【明治の50冊】(23)島崎藤村「若菜集」共感呼ぶ恋愛への情熱

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【明治の50冊】
(23)島崎藤村「若菜集」共感呼ぶ恋愛への情熱

日本近代文学館による昭和59年の復刻版 日本近代文学館による昭和59年の復刻版

 《まだあげ初めし前髪の/林檎(りんご)のもとに見えしとき/前にさしたる花櫛(はなぐし)の/花ある君と思ひけり/後略》

 島崎藤村の「初恋」の一節である。日本の近代詩歌の中でもっとも愛される作品かもしれない。昭和43年刊行の新潮文庫版『藤村詩集』は70刷62万部に達し、現在も売れ続ける。また、46年には舟木一夫の歌がヒットした。日本人の感受性が革命的に変化でもしないかぎり読む者の胸をキュンとさせ続ける詩だ。

 「初恋」を収めた藤村の処女詩集『若菜集』は明治30年8月に刊行された。日清戦争終結から2年5カ月。藤村は25歳だった。前年、何かとしがらみの多い東京を離れ、東北学院の教師となり仙台で1年弱を過ごした。『若菜集』の詩は、いずれもこの地で書かれ、東京・銀座の泰明小で共に学んだ北村透谷(とうこく)や、英米文学の名訳で知られる平田禿木(とくぼく)らが健筆をふるっていた「文学界」に発表された。

 七五調を基調にした51編は、当時隆盛を誇っていた装飾過剰な言葉を多用する擬古派の詩とは完全に一線を画している。藤村は封建時代に抑圧されてきた青年の情熱(恋情と漂泊へのあこがれ)を、本人の言葉を借りれば、湿った松明(たいまつ)のように静かに燃やしたのだ。

 本詩集を代表する作品として、「初恋」や《あゝうらさびし天地(あめつち)の/壺(つぼ)の中(うち)なる秋の日や/落葉と共に飄(ひるがへ)る/風の行衛(ゆくえ)を誰(たれ)か知る》で閉じられる「秋風の歌」を挙げることに異論をはさむ者はおそらくいないだろう。また、衝撃度という点では、6人の処女(おとめ)(おえふ、おきぬ、おさよ、おくめ、おつた、おきく)に仮託して書かれた6編の詩を外すわけにはいかない。

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