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【書評】文芸評論家・池上冬樹が読む『ののはな通信』三浦しをん著 四半世紀を書簡で描く意欲作

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文芸評論家・池上冬樹が読む『ののはな通信』三浦しをん著 四半世紀を書簡で描く意欲作

『ののはな通信』三浦しをん著 『ののはな通信』三浦しをん著

 三浦しをんというと駅伝小説の名作『風が強く吹いている』、便利屋の青年たちを描く『まほろ駅前多田便利軒』(直木賞)、辞書作りの裏側を丹念に辿(たど)った『舟を編む』(本屋大賞)などが思い出され、洗練されたストーリーテラーの印象が強いだろう。

 だがしかし、昔話を大胆に改変した短編集『むかしのはなし』、暗黒小説(ノワール)に正面から挑戦した傑作『光』、谷崎潤一郎『細雪』を独特のアプローチで現代に置き換えた『あの家に暮らす四人の女』(織田作之助賞)など極めて文学的な手法に意欲的な作家であり、事実、本書では全編書簡体形式を試みている。

 物語の舞台は横浜のミッション系お嬢様学校で、主人公は庶民的な家庭で育ったのの(野々原茜)と、外交官の家に生まれたはな(牧田はな)。頭がよくクールで毒舌なののと、天真爛漫(らんまん)なはなは気があい、高校2年の生活を謳歌(おうか)していた。しかしののは友情以上の感情を抑えることができず、はなに告白して、二人の恋愛関係が始まるものの、ある裏切りから崩れていく。

 これが第一章で、その後大学時代の二人を描く第二章、40代になった二人の現在を捉える第三章&第四章へと続く。1984年からおよそ四半世紀を書簡(手紙、メール、メモ)で描くのだが、同じ書簡体形式で波乱に富むラクロの古典『危険な関係』同様、三浦もまた隠していた事実を提示して緊張感を与え、読者を強く牽引(けんいん)していく。

 だが、最も驚くのは、鍵括弧でしか使えない魂や運命といった言葉の埃(ほこり)を払い、本来の輝きを付与している点だろう。同性愛や異性愛をこえた本質的な愛とは何かを問いながら、容易に暴力に変貌しうる愛と教育を、人生を支える大切な記憶を、まわりに伝播(でんぱ)して何かを清める物語の力を、そして人を突き動かす誇りに基づく選択や言動を熱く真摯(しんし)に語りかけるのである。

 その気高さと尊い愛の力を強く訴えるという点で、書簡体形式の恋愛小説の古典、宮本輝の『錦繍』に迫るものがある。本書は間違いなく三浦しをんの新たな代表作であり、必読の書といえるだろう。(KADOKAWA・1600円+税)

 評・池上冬樹(文芸評論家)

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