産経ニュース

【書評】論説委員・田中規雄が読む『マリア・シャラポワ自伝』金井真弓訳 闘争心に火つけた逆境人生

ライフ ライフ

記事詳細

更新

【書評】
論説委員・田中規雄が読む『マリア・シャラポワ自伝』金井真弓訳 闘争心に火つけた逆境人生

『マリア・シャラポワ自伝』マリア・シャラポワ著、金井真弓訳 『マリア・シャラポワ自伝』マリア・シャラポワ著、金井真弓訳

 女子テニスの元女王、マリア・シャラポワは、ひいきの選手ではなかった。球を打つたびに上げる叫び声は聞き苦しい。美貌を鼻にかけている、と勝手に思い込んでいた。それでも本書を手に取る気になったのは、例のドーピング問題があったからだ。

 もともとシャラポワは、2016年のシーズンを終えたら、引退するつもりだったらしい。弱冠17歳でウィンブルドンを制して、世界を驚かした。その後、全米、全豪、全仏とグランドスラム大会すべての優勝を経験している。観客の温かい拍手に見送られながら、コートを去るはずだった。ところが、国際テニス連盟から届いた一本のメールが、すべてを台無しにした。尿検査で禁止薬物が検出されたというのだ。

 シャラポワによれば、10年前から主治医に勧められて飲んでいた。禁止薬物に指定されていたとは、知らなかった。彼女の弁解は聞き入れられなかった。スポンサーは離れ、自宅前では、見知らぬ少年から罵声を浴びせられた。

 シャラポワは6歳のとき、父親とロシアから米国に移り住んだ。以来、彼女の人生は闘いの連続だった。倒さなければならない相手は、コート上のライバルだけではない。貧困、ケガ、そしてシャラポワの才能を利用して大もうけを狙う強欲な大人たち…。新たな逆境がシャラポワの闘争心に火を付けた。「こんなことでは負けない」。かくして、引退話は吹っ飛んだ。

 自伝の一番の読みどころは、やはりセリーナ・ウィリアムズとの確執だろう。ウィンブルドンの決勝で破り、頂点への扉を開いてくれた相手だ。もっともそれ以降、全く勝たせてもらえない。シャラポワは理由を、ウィンブルドンのロッカールームで起きた、ある出来事に求めている。セリーナは多分全否定するだろうが…。

 今年のウィンブルドン1回戦で、シャラポワは格下の相手に逆転負けを喫した。産休明けのセリーナは惜しくも準優勝だったが、明暗ははっきり分かれた。因縁の2人の対決をもう一度見たい。セリーナの本音も聞きたい。(文芸春秋・2100円+税)

 評・田中規雄(論説委員)

「ライフ」のランキング