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【書評】文芸評論家・縄田一男が読む『傍流の記者』本城雅人著 流れる気骨に嗚咽止まらず 直木賞候補作

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【書評】
文芸評論家・縄田一男が読む『傍流の記者』本城雅人著 流れる気骨に嗚咽止まらず 直木賞候補作

『傍流の記者』本城雅人著 『傍流の記者』本城雅人著

 この一巻を読了して胸に残るのは、自身、新聞記者経験を持つ作者のリアリティーあふれる筆致--などというおためごかしの褒めことばではなく、息が苦しくなるような生々しいほどの臨場感であった。

 物語は、一種の群像劇として描かれ、主人公たちは東都新聞社会部の面々-「事件」の植島、「司法」の図師、「都庁と医療」の土肥等々-といった優秀な世代の5人組。だが、彼らは決して往年の島田一男『事件記者』のように決して一枚岩ではない。

 友情や敬意もあるかわりに、時として、それを上廻(うわまわ)る嫉妬や憎しみも存在する。さらに家族や保身の問題までも。

 物語は全6話の構成だが、次第にそれが一つの渦となって5人を呑(の)み込み、互いにライバル関係であっても、一目置く同志でつくられている社会部に解体の危機が訪れることになる。

 そして、その火元は、東都新聞幹部と政局との癒着という最悪の結果をあぶり出すことに--。

 すべてをさらけ出すか、それとも隠蔽(いんぺい)するのか。

 作中人物の一人、人事部長の北川が次のように考えるシーンがある。

 〈記者なんてものは新聞という長い歴史の中で、数珠繋(つな)がりの一つのピースに過(す)ぎない。東都新聞社会部が戦ってこられたのは、先輩たちが築き上げたものを、植島たちが、図師が、土肥、城所、名雲が受け継ぎ、次の者へと確実に繋げていったからだ。それが今回、北川はその糸を断ち切り、一つの珠(たま)だけを残せと命じられたのだ。たった一つ残った珠でなにができる〉と。

 だが、私たちはこの作品のラストで見る。そのバラバラにされた珠が見事に集まり、一つの奇跡を起こすのを。

 これは決して一つの予定調和的なハッピー・エンドなどではない。私は最後の1ページを読みつつ、あふれ出る嗚咽(おえつ)を止めることができなかった。

 この一巻は、今回の直木賞の候補となっている。これほどまでの気骨を示した本書こそ、私はもっともそれにふさわしいと信じて疑わない。(新潮社・1600円+税)

 評・縄田一男(文芸評論家)

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