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【書評】童話作家・赤羽じゅんこが読む『つながりの蔵』椰月美智子著 少女3人組、ひと夏の回想

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【書評】
童話作家・赤羽じゅんこが読む『つながりの蔵』椰月美智子著 少女3人組、ひと夏の回想

『つながりの蔵』椰月美智子著 『つながりの蔵』椰月美智子著

 華やかではないし、複雑なしかけもない。しかし、読み終わった後に静かな余韻がただよい続ける、なつかしい香りのする小説だ。

 主人公は新潟に住む41歳の主婦、遼子。幼なじみの美音(みおん)から四葉(よつは)がくるから同窓会に行かないかと誘われる。そこから、小学5年生の視点でひと夏の回想が動き始める。

 利発でおませな美音から「お気楽でいいよね」といわれてしまう遼子、ニコニコしているがまわりから「不思議ちゃん」と敬遠される四葉、クラス替えで知り合いはしたものの、どこかぎくしゃくした3人は、クラスで起こったささいな事件をきっかけに仲よくなる。

 遼子の書くポエム、高校生の兄が撮っている映画でモグラ人間にされたエピソードなど、行間から少女のクスクス笑いがもれ聞こえるようで、ほのぼのと楽しい。でも、子供時代が喜びだけで満ちているはずはなく、平凡な暮らしでも、自分ではどうにもできない不安や友情のこじれ、いらだちがつきまとう。

 美音は弟のことで誰にもいえない重しをかかえ、遼子は遼子で、大好きな祖母が病気になって自分を忘れてしまうことに不満を持っている。ふたりは幽霊屋敷とうわさされる古い蔵につれて行かれ…。かんぬきのかけられた重厚な扉、夏でもひんやりした漆喰(しっくい)の空気感、古い蔵というのは、ただそこにあるだけで何かを隠し守っているような風情がある。3人が秘密をわかちあうのに、格好の舞台といえよう。

 著者の椰月(やづき)美智子は、恋愛小説からシリアスな家族関係まで幅広く書く作家だが、もとをたどれば児童書でデビューしている。代表作『しずかな日々』でみられるように、思春期手前の繊細でこわれそうな少年少女の描き方がとてもうまい。上から見おろした、大人に都合がいい子供像ではなく、作者自身がその年齢に返っているので、わざとらしさがなく、追体験するように読める。

 縁側でひなたぼっこするような味わいをたたえた一冊。ほっとしたいときにおすすめだ。(KADOKAWA・1400円+税)

 評・赤羽じゅんこ(童話作家)

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