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【書評】映画批評家・高崎俊夫が読む『銀幕に愛をこめて ぼくはゴジラの同期生』宝田明著、のむみち構成 フィルム時代の麗しい記憶の証言

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【書評】
映画批評家・高崎俊夫が読む『銀幕に愛をこめて ぼくはゴジラの同期生』宝田明著、のむみち構成 フィルム時代の麗しい記憶の証言

『銀幕に愛をこめて ぼくはゴジラの同期生』宝田明著、のむみち構成 『銀幕に愛をこめて ぼくはゴジラの同期生』宝田明著、のむみち構成

 クールな二枚目俳優として一世を風靡(ふうび)し、日本映画の黄金時代を駆け抜けた宝田明さんの聞き書きによるメモワールである。まず第一章、満州での幼少時代、ソ連兵に銃撃されながら一命を取り留めて、引き揚げるまでの凄絶(せいぜつ)な回想に胸を突かれる。この体験は生涯、宝田にとって癒やしがたい傷痕として深く刻まれることになる。

 東宝ニューフェイスに合格し、すぐさま運命的な作品と出合う。『ゴジラ』(1954年)の主役に抜擢(ばってき)されるのだ。宝田は核の恐怖のテーマが根底にあるこの作品を試写で観(み)て号泣したと語る。監督の本多猪四郎をはじめ作り手たちの悲惨な戦争体験の記憶が塗りこめられた、この第1作を「レンブラントの絵を見るような」「哲学的な作品」であるとも述懐している。

 名監督たちのスケッチも本書の読みどころのひとつだ。たとえば『放浪記』(62年)でセリフもない、ある何げないシーンで成瀬巳喜男から延々とダメ出しが出て、カメラが回らない事態が起きる。宝田は疲労困憊(こんぱい)の果てに主演の高峰秀子に教えを請うのだが、冷たく拒まれ、思わず逆上してしまった顛末(てんまつ)は、その20年後、高峰から突然、電話がかかってくる後日談のエピソードも含めて感動的だ。

 キャリアウーマンの孤独をハードボイルドなタッチで描いた『その場所に女ありて』(62年)の鈴木英夫の狷介(けんかい)なキャラクター、宝田自身が「絶対的な才能」「正に匠(たくみ)の中の匠。映画の魔術師」と絶賛する『二人の息子』(61年)の千葉泰樹など、近年、再評価が高まっている映画監督の個性的な肖像も印象に残る。

 「映画は全てレンズを通して見るものだ。観客の目がレンズなのだ」「役者はフレームを知る」とは、宝田の座右の銘である。まさに、デジタルではなくフィルムによって夢が紡がれていた撮影所の時代の麗しい記憶の証言といえるのではないだろうか。

 なお、構成ののむみち(野村美智代)は、フリーペーパー「名画座かんぺ」発行人。適宜挿(はさ)まれる映画史の解説も簡にして要を得て、本書の魅力に大きく貢献している。(筑摩書房・2000円+税)

 評・高崎俊夫(編集者、映画批評家)

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