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【追悼】津本陽さん 圧倒された「深重の海」の世界観 作家・伊東潤

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【追悼】
津本陽さん 圧倒された「深重の海」の世界観 作家・伊東潤

剣道三段、抜刀術五段の腕前で、剣豪や殺陣の描写に定評があった作家の津本陽さん=平成23年(松本健吾撮影) 剣道三段、抜刀術五段の腕前で、剣豪や殺陣の描写に定評があった作家の津本陽さん=平成23年(松本健吾撮影)

 歴史小説界の重鎮・津本陽氏がお亡くなりになられた。確かにご高齢だったが、お元気にしていると聞いていたので茫然(ぼうぜん)としてしまった。

 私は津本氏とこれまで二度お会いし、一度だけお話しさせていただいた。それだけのことで、私が追悼文を書くのはおこがましいかもしれないが、私が最も好きな小説作品は『深重(じんじゅう)の海』であり、その世界観に圧倒されて山田風太郎賞受賞作品の『巨鯨(きょげい)の海』を書いたという経緯がある。そうした御縁からご指名を受け、平成27年に集英社から再刊された『深重の海』の帯の言葉も担当させていただいた。

 一度だけお話しさせていただいたのは、25年6月の歴史時代作家クラブ賞授賞式においてである。その時、控室で初めてお会いし、4月に発刊されたばかりの『巨鯨の海』について語った。津本さんは「そうなの。僕の作品がきっかけになったの」と驚かれたので、私は「『深重の海』の世界観にもっと浸りたくて、自分で書きました」と答えたところ、「僕も手本にされる立場になったんだね」と感慨深そうに語っておられた。その時、作家生活を振り返るかのような目をしていたことが、今でも印象に残っている。

 津本さんは昭和40年代から同人誌「VIKING」で活動し、53年に『深重の海』で直木賞を受賞した。その後、歴史小説を中心に執筆活動を展開し、その緻密な心理描写と重厚な筆致によって多くの読者を獲得していった。そして平成元年には日経新聞に連載した『下天は夢か』が上下巻で200万部を超えるベストセラーとなり、その地位を不動のものとした。

 平成に入って、司馬遼太郎氏や松本清張氏をはじめとする昭和を代表する作家たちが死去する中、津本氏は旺盛な創作活動を続け、9年には紫綬褒章、15年には旭日小綬章を授与され、名実ともに日本を代表する作家の仲間入りを果たした。

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