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【書評】『誰でもない』ファン・ジョンウン著、斎藤真理子訳 韓国の「最も期待される作家」の初邦訳

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【書評】
『誰でもない』ファン・ジョンウン著、斎藤真理子訳 韓国の「最も期待される作家」の初邦訳

 韓流ドラマやKポップ(韓国ミュージック)への熱さに比べると、日本で韓国文学は未知の世界といえるかもしれない。そこへ光を当てた「韓国文学のオクリモノ」シリーズの第4弾が若手女性作家ファン・ジョンウンの『誰でもない』である。

 8編の短編が収められているが、どの小説にも求心力があり、4編が文学賞を受賞(うち1編は受賞辞退)しているという「現在、最も期待される作家」の初邦訳だ。翻訳の筆力も素晴らしい。

 それぞれの話の登場人物はどこにでもいる人々だ。それは韓国人でもあり、日本人でもあり、あなたであり、私である。日常がリアルに息づいていて、何度も何度も「あるあるある!」とつぶやいてしまう。

 近所の騒音に悩む女性や旅行中の夫婦、非正規労働者、死んだ恋人の思い出と暮らす老婦人など今日を生きている人間の現実。

 「ヤンの未来」は、女性書店員の主人公が、失跡した少女の最後の目撃者に偶然なってしまったことで、彼女の日常が理不尽な方向に一気にずれていく様(さま)が描かれている。

 「わらわらい」はデパート店員が接客でつくり笑いをする心象風景が迫ってくる。執拗(しつよう)に。笑いたくない、笑います、笑ってます、笑う人です、笑うんですよ、笑うしかないでしょ…。それなのに一度の接客ミスが彼女を笑ってはいられない状況へと追い込んでいく。

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