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【モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら〈26〉】沖仲仕の哲学者を読む

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【モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら〈26〉】
沖仲仕の哲学者を読む

「沖仲仕の哲学者」と呼ばれたエリック・ホッファーの自伝と箴言集(ともに作品社) 「沖仲仕の哲学者」と呼ばれたエリック・ホッファーの自伝と箴言集(ともに作品社)

ホッファーの自伝に魅了され

 「沖仲仕の哲学者」と呼ばれたエリック・ホッファー(1902~83年)の著作を読みたくなった。新鮮な言葉に飢えていたのは確かだが、本当のところ理由はよく分からない。何かに導かれた、としか言いようがない。こんなときには、間違いなくコクのある読書体験ができることを経験的に知っていたので、「善は急げ」とばかりに会社に近い書店で『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』(作品社)を買ってきた。すぐさま読み始めた。めっぽう面白い。経験は裏切らない。

 まずホッファーを簡潔に紹介しておこう。彼はニューヨークにドイツ系移民の子として生まれた。7歳で母を亡くし、同じ年に失明する。正規の学校教育を一切受けることなく、親類だったか家政婦だったか分からないマーサという女性に愛情をもって育てられる。15歳のときに突如視力を取り戻し、目の見える間に読めるだけ読んでおこうと、朝から晩まで本を読んで過ごしたという。16歳のときに第一次世界大戦が終結、マーサは彼の元を去ってドイツに移住する。その2年後には父を失い、天涯孤独の身となる。わずかばかりのカネを持ってロサンゼルスに移り、さまざまな職業を転々とする。28歳のときに自殺を図るが失敗。その後は季節労働者としてカリフォルニア州を徘徊(はいかい)し、真珠湾攻撃のあった41年、サンフランシスコに居を定めて沖仲仕、つまり港湾労働者として働くようになる。このとき彼は39歳。そこで余暇のすべてを読書と思索にささげ、『大衆運動』『波止場日記』『魂の錬金術』『現代という時代の気質』『安息日の前に』といった哲学的著作を生み出していった。

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