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【大学ナビ】大東文化大 書道と漢文でAI超える学び拓く

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大東文化大 書道と漢文でAI超える学び拓く

河内利治副学長(中央左)が完成させたばかりの書を和やかに囲む門脇廣文学長(同右)や書道部の学生たち。『論語』にある言葉「恕」がこの作品の主題だ=東京都板橋区の大東文化大学(吉澤良太撮影) 河内利治副学長(中央左)が完成させたばかりの書を和やかに囲む門脇廣文学長(同右)や書道部の学生たち。『論語』にある言葉「恕」がこの作品の主題だ=東京都板橋区の大東文化大学(吉澤良太撮影)

 ■心の可視化へ創造・伝統結集

 創設95周年を迎える大東文化大学(東京都板橋区)が、開学以来の伝統をもつ書道や漢文を通じた新たな学びに挑戦する。キーワードは「超領域(超域)」と「原点回帰」。創造と伝統を両翼にして世界へと飛翔(ひしょう)すると同時に、「多文化共生」を目指す大東大ならではの取り組みといえそうだ。(編集委員 関厚夫)

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 大東大では「英語」や卒業後の長い人生を見据えた「キャリアデザイン」、「スポーツの大東」を象徴する「体育」と並んで「書道」を来年度から全学生を対象とした「推奨科目」(「Daito BASIS」)として指定する方針だ。門脇廣文学長によると、きっかけはスポーツ・健康科学部の教員から「スポーツ科学科の学生たちに書道を学ばせて、書道を通じた精神面の鍛錬がスポーツの競技結果に及ぼす影響を研究したい」と話があったことだった。

 この「初志」といえるプロジェクトも近く、本格的に動き出す。書道学が専門で、書家でもある河内利治副学長は「概念的なものを先に言うと、学問分野の枠組みを超え、心の働きを科学的なデータとして解析することによって人間の内面を“見える化”するのが目的です。これは『超領域』による試みといえます」と解説する。

 河内副学長によれば、書道は書を通じて『論語』の教えをはじめとする「人として踏み行う道」を表・体現する芸術で、「東洋のヒューマニティー」といえる。そんな書道は精神面が重要という点でスポーツと似通っているという。

 「その道の才能を伸ばすために大学に進学する。うまく成果をあげ続ける学生もいれば、挫折したり、悩んだりする学生もいます。後者の場合、スポーツでも芸術でも、精神面の強化が重要視されますが、人間の内面、精神面は最も不可思議な世界です。AI(人工知能)だけではカバーしきれないこうした世界を解明する。そこに芸術やスポーツを学問として探究する場である大学の存在価値があると考えています」

 大東大は5年後に創設百周年を迎える。その記念事業の一環として検討されているのが漢文と書道を一体化してとらえる研究だ。

 明治維新後、欧米の学問体系が本格的に輸入されたため、漢文と書道は分離されたが、それまでは一つの学問だったという。また明治期まで千数百年にわたってわが国の学問を支えてきた漢学の振興をはかるために大東大が創設されたさい、そこには「書道の振興」も含まれていた。漢文と書道の融合は大東大にとって二重の意味で「原点回帰」といえる。

 漢文教育はいま、危機的ともいえる状況にある。全大学生の約8割が通う私立大では、文系でさえ国語の試験で「漢文を除く」が主流となっており、その流れは国公立大学の2次試験にも広がりつつある。中国中世文学が専門でもある門脇学長は語る。

 「多文化共生を考えたさい、英語は非常に重要です。でも、自国の文化や伝統を知らないことには他国の文化を真に理解し、尊重することはできません。現在のグローバル化の議論ではこの点が軽視されているがために、いざ実際に英語でコミュニケーションを取るさいには表面的な内容に終始するのではないか、との危惧を抱いています。大正年間後期、本学の設立が望まれた時代もまた、類似の問題を抱えていました」

 門脇学長によれば、『論語』は決して難解な書物ではなく、その教えはいまも日本人の心のどこかに生きている。一つの例が、孔子が生涯持ち続けるべしと説いた「恕(じょ)」(思いやりの心)である。

 「東日本大震災のさい、被災地をはじめ、さまざまな場所で他者や弱者を思いやる行動がみられました。まさに『恕』です。ふだんは気付かないけれども、これらの美徳はわれわれに伝えられ、何かの拍子に顕在化するのでしょう。本学の書道や漢文に対する新たな取り組みによって、こうした日本人の底流や源流にあるものが解き明かされることを期待しています」

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