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【書評】『アイリーンはもういない』オテッサ・モシュフェグ著、岩瀬徳子訳 醜悪な心を書き尽くす

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【書評】
『アイリーンはもういない』オテッサ・モシュフェグ著、岩瀬徳子訳 醜悪な心を書き尽くす

『アイリーンはもういない』オテッサ・モシュフェグ著、岩瀬徳子訳(早川書房・2100円+税) 『アイリーンはもういない』オテッサ・モシュフェグ著、岩瀬徳子訳(早川書房・2100円+税)

 死者のような、慈悲深い無の微笑(ほほえ)み--24歳のアイリーンが仕事中につけていた表情だ。彼女は内奥に秘めた激情を抑えるためにこの仮面をかぶり、内気で平凡な人間のふりをして生活をしていたのだ。本書はそんな彼女が故郷も名前もすべて捨てて行方をくらますまでの1週間を、50年後のアイリーン自身が回顧する形で綴(つづ)った物語である。

 はじめに断っておくと、読んでいて気持ちの良い話では全くない。なぜなら、一人の若き女性の不安定な情緒が、おぞましく克明に描き出されているからだ。

 自分の体形にあらわれた女らしさを嫌悪し、食事もまともにとらず、食べたものはすぐに吐くか、下剤に頼る。人目を引かぬよう、服は死んだ母の形見ばかり着て、不格好に見えることも厭(いと)わない。日中から酒をあおり、幻覚に怯(おび)える父親を激しく憎むが、良い子のふりをしてやり過ごす。少年矯正施設という名の監獄での勤務中は、孤独な女を演じつつ、入所してくる少年たちや男性同僚に対して下劣な想像を膨らませる。友達はおらず、自己評価が低い一方で、周囲を内心で見下しては快感に浸る…。

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