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【書評】脚本家、小林竜雄が読む『それまでの明日』原りょう著 「探偵マーロウ」再生の実験に新味

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【書評】
脚本家、小林竜雄が読む『それまでの明日』原りょう著 「探偵マーロウ」再生の実験に新味

『それまでの明日』 『それまでの明日』

 原●は愚直な作家である。探偵・沢崎を主人公にしたハードボイルド長編小説以外には脇目も振らず1988年のデビュー作『そして夜は甦(よみがえ)る』から5作目の本著まで書き続け、唯一の短編集も同様という徹底ぶりだからだ。原が試みてきたことはチャンドラーの創造した探偵・マーロウを日本の湿った風土の中で沢崎という中年探偵でいかに再生するかというあえていえば実験であった。チャンドラーに影響を受けた作家には村上春樹がいるが、探偵物を書いたわけではない。謎を追うスタイルを借用しただけだ。

 前作から14年もたっていた。40代でデビューした原も70代の老境に入っていた。あまりに長かったのでもう書けないのかと思っていた。行き詰まってしまったのではないかという危惧である。それには理由がある。沢崎シリーズはマーロウ物の模倣ではなかった。独自の設定があった。

 パートナーだった酒びたりの渡辺の存在である。彼は覚醒剤と暴力団の1億円の金を奪って失踪。沢崎はそのため1人で事務所を維持していく破目になっていた。そこで事件が起きるたびに渡辺のことを考えるようになる。沢崎の影の部分を渡辺が担っていたといえ、マーロウ物にはなかった人生の苦みが出た。

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