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国民生活の視点から考える30年後の電源(エネルギー)構成 「石炭火力発電」が担うものとは

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国民生活の視点から考える30年後の電源(エネルギー)構成 「石炭火力発電」が担うものとは

 政府は、国のエネルギー政策の指針を定めた「エネルギー基本計画」の改定にむけた議論を進めている。国民の生活に大きな影響を与える中長期的なエネルギー政策。30年後を見据えた未来のエネルギー構成を考えるには、どのような視点を大切にすべきか。経済と産業、そして私たち国民生活の視点から考える。

国民の幸福に資するエネルギー政策とは

 常葉大学経営学部の山本隆三教授は、「エネルギー政策は国民の生活のためにあるべきであり、十分な議論が求められる」と語る。「働く人の給与を上げて、将来世代も生活の質を落とさず持続的に発展していくためには、経済・産業の成長が不可欠。とりわけ日本の産業の中心に位置し、雇用も大きい製造業の復活と成長を促すためには『安定的』かつ『経済的』なエネルギー供給が必要になってくる。」と話す。

 資源エネルギー庁がまとめた資料によると、2016年度の日本の発電電力量構成では、液化天然ガス(LNG)火力が40.4%と最も多く、次いで、石炭火力が33.3%、石油火力が9.3%を占める。東日本大震災以降、稼働再開が進まない原子力はわずか1.7%、水力を含む再生可能エネルギーは15.3%。太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用する取り組みは進んではいるものの、全体の8割以上を火力に頼らざるを得ない状況が続いている。

 山本教授によると、原油やLNGの価格が高騰した2014年度には円安や再生可能エネルギーの固定価格買取制度の負担増もあり、震災前の2010年度に比べ産業用の全国平均電気料金が38%も上昇、家庭用の料金は25%も上昇した。

 山本教授は「この年、製造業が支払った電気料金は年間1兆2000億円以上増えた。震災後、セメントや鉄鋼、化学などエネルギー多消費型産業、エネルギーコストの比率が高い業界の成長率が低迷。電気料金以外の要因もあるが、電気料金の負担増が会社の収益に少なからず影響を与えていることは明らか。その負担増分の1兆2000億円を働く人の給与に回すことも、研究開発や設備投資に向け業績向上に繋げることもできたはずだ」と指摘する。

 また、中長期的な視点でエネルギー構成を考えるにあたり、大切なのはコストだけではない。安全性の確保を大前提として「経済性」「エネルギー安定供給(エネルギーセキュリティ)」、「環境性」の3つのバランスを確保する「S+3E」という考え方がある。(註1) エネルギーセキュリティは、地政学的な条件に左右される。水力資源が豊富な国、石油や天然ガスが豊富な国、他国からの電力融通が可能な国など、国によって条件は異なる。日本では資源の大部分を海外からの輸入に依存しており、エネルギー自給率はわずか8%となっている。「価格が安定的でいつでも買えるものをエネルギー政策の中心にすえるべき」と山本教授は話す。

註1:S+3E:Safety(安全)、Economy (経済性)、Energy Security(エネルギー安定供給)、Environmental Conservation(環境性)の頭文字をとったもの。

  出典: 「IEA  World Energy Outlook 2017」、「第22回(2017年11月28日)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会資料」他から作成 ※自給率=一次エネルギーの全体供給量に占める国内生産分の割合(原子力も国内生産分に含む) 出典: 「IEA World Energy Outlook 2017」、「第22回(2017年11月28日)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会資料」他から作成 ※自給率=一次エネルギーの全体供給量に占める国内生産分の割合(原子力も国内生産分に含む)

石炭の高い経済性と安定的な供給

 「S+3E」のバランスを確保するには、各電源の特徴を活かして自国にとってベストなエネルギー構成を模索していく必要がある。「日本のエネルギー構成の選択肢の一つとして、意外に思えるかもしれないが、石炭火力が重要になってくる」と山本教授。実は石炭火力は「経済性」「エネルギーセキュリティ」の観点からメリットがあるという。

 「石炭は、石油やLNGに比べて価格が低位安定している。今後、再生可能エネルギーの比率が高まればさらに電気料金のコストが高まる。電気料金の上昇を抑え、経済的負担を抑えるためにも石炭火力発電が将来にわたって担う役割は大きい」と山本教授は語る。

 出典:財務省 貿易統計 出典:財務省 貿易統計

 資源エネルギー庁の試算によると、2014年時点のモデルプラント建設前提で、40年間の発電費用は1キロワット時当たりLNGが13.7円、石油が30.6円~43.3円であるのに対して石炭火力は12.3円だ。(すべてCO2対策費を含む)

 また、石油やLNGは中東への依存度が高く、ともに政治情勢によっては価格が大きく高騰するリスクがある。一方で、石炭の主要な供給元は、北米、オーストラリアやインドネシアなど政治的に安定した国が大半を占めている。「産出国が分散化し、競争原理が働いている」(山本教授)ことも価格が安定している背景にあるという。

出典:財務省 貿易統計 出典:財務省 貿易統計

 山本教授によると「地政学的リスクで再び原油やLNGの価格が上昇する可能性は高い。また、原油やLNGの供給を外交的なカードとして切られる懸念もある。一定量を石炭火力でまかなうのは日本のエネルギーセキュリティの観点からも必要」という。さらに、マイナス162度の超低温で液化保存するLNGに比べ、屋外でも貯蔵が可能な石炭は、利用しやすさという点でも優位となっている。

石炭火力の抱える課題

 「経済性」「エネルギーセキュリティ」の点で優位な石炭火力であるが、「環境性」ではどうか。石炭火力は二酸化炭素(CO2)の排出量が天然ガス火力や石油火力より多く、近年風当たりは強くなっている。英国やフランス、カナダが石炭火力の全廃を表明するなど、地球温暖化防止の観点から「脱石炭火力」の動きが強まっている。日本国内でも約40の石炭火力の建設計画が進められているが、温室効果ガス削減に力を入れる環境省は増設に否定的な姿勢を示している。

 「脱石炭の方針を掲げる国はエネルギー自給率が高い。日本と同じ島国の英国にしても、エネルギー自給率は67%ある。油田を保有していたり、送電線やガスパイプラインが大陸と繋がっていたり、自給率が約8%の日本とは立場が違う。日本が『石炭をやめる』というのは自らエネルギーの安定供給の道を断つことになりかねない」と山本教授は語る。

 15年に政府がまとめた長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)では、30年度の電源構成は、再生可能エネルギー22~24%まで高め、温室効果ガスの削減に取り組むとされている。そのときの火力発電の比率は石炭火力26%、LNG(液化天然ガス)火力27%、石油火力3%としている。一方で、2016年に温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が発効し、日本は温室効果ガスを30年に13年比で26%削減する目標を掲げている。目標達成のためには省エネルギーをさらに進める必要がある。

出典: 資源エネルギー庁資料から作成 出典: 資源エネルギー庁資料から作成

技術革新で石炭を「持続可能な電源へ」

 安定的で経済的な電力供給を実現しながら、温室効果ガス削減目標を達成するために方法はあるか。期待されるのは、石炭火力を「持続可能な電源」にするための技術開発だ。

 石炭火力の低炭素化に向けては、石炭ガス化複合発電(IGCC)がある。石炭を高温でガス化してタービンを回すとともに、排ガスの熱で発生する蒸気でも発電することで熱効率を引き上げる。同じ石炭からより多くの電力を得ることができ、CO2排出量の削減に繋がる。

 この技術で注目されるのが、Jパワー(電源開発)が、中国電力と共同で広島県大崎上島町において進める「大崎クールジェンプロジェクト」だ。このプロジェクトでは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受け、酸素吹IGCCの実証試験を進めるとともに、その次の段階であるCO2分離・回集設備を付加したCO2分離・回収型IGCCの実証試験に向けた準備を進めている。なお将来的に、IGCCは既存の最新鋭石炭火力(USC:超々臨界圧)に比べて、二酸化炭素排出量の約15%削減を目指す。

大崎クールジェンの全景(広島県豊田郡大崎上島町) 大崎クールジェンの全景(広島県豊田郡大崎上島町)

 さらに、燃料電池を組み込んで、より熱効率を高めた石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証事業も計画しており、CO2排出量は既存の石炭火力の約30%削減することを目標とする。

 これらの取り組みは、資源小国の日本のみならず世界のエネルギー問題と環境問題の解決に貢献する「究極の超高効率発電技術」として期待されている。

石炭火力の次世代技術 提供:大崎クールジェン 石炭火力の次世代技術 提供:大崎クールジェン

 また、発電の過程で発生するCO2を分離・回収し、地下に貯蔵する「CCS技術」の実用化に向けた研究開発も進行中だ。こちらもJパワーなどが出資する日本CCS調査(株)が北海道苫小牧で設備性能や安全性、環境への影響などを検証するために大規模な実証実験を進めている。実用化すれば、石炭火力だけでなくあらゆる火力発電、さらには工場からのCO2排出も抑制でき、抜本的な解決につながる技術だ。

提供:J-POWER 提供:J-POWER

世界視点で「S+3E」のバランスを

 低コストで発電できる石炭火力は日本以上に途上国でのニーズが高い。国際エネルギー機関(IEA)の推計では、2035年の発電電力量は1.7倍に増え、その中で石炭火力は引き続き世界最大の発電シェアであり続けるという。東南アジア諸国では、2035年に石炭火力設備は今の約2倍になるとIEAは予測している。「東南アジア諸国には2700万人も電気のない生活をしている人がいる。そうした国から経済的に発電が可能な石炭火力の選択肢を奪ってしまうのは、持続可能な発展とはいえない」と山本教授は指摘する。石炭火力が必要な途上国に、日本が技術開発を進める高効率発電技術を導入することも、低炭素社会実現に向けた近道にもなる。

出典: 「IEA  World Energy Outlook 2017」から作成 出典: 「IEA World Energy Outlook 2017」から作成

 CO2排出というデメリットを克服し、安価で安定的な電力を生み出すメリットを最大限に生かす。石炭火力は地球規模の課題を克服する可能性を備えている。2050年に向けて、日本だけでも先進国だけでもなく、世界が持続的に発展していくためには、これからも石炭火力はエネルギーの重要な選択肢となりうるだろう。

提供:J-POWER(電源開発株式会社)

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