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【きのうきょう】明治期の古物とバラの新芽 

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【きのうきょう】
明治期の古物とバラの新芽 

 横浜市神奈川区 竹内慶子 39 会社員

 長いこと放置されていた大伯父の家が取り壊されることになり、最後を見届けるべく出かけた。たたずまいは幼い頃の記憶通りだが、軒下は破れ、小庭は一面枯れ草、ほとんど浅茅(あさじ)が宿(やど)の様相である。しかし中で待っていたのは骸骨(がいこつ)ではなく、大量の古物だった。

 東京府携帯地図、明治期の手紙に切手類、和とじの本。殊に目立つのは文庫本よりも小さなノート類。明治末の生まれである大伯父は記録魔で、ことあるごとに雑感を書き留めていた。関東大震災、趣味の鉄道旅行、そして戦争のこと。紙面は歳月に灼(や)け黄ばみ、ページを繰るごとに古い紙の匂いが立ち上る。さらに遡(さかのぼ)って、曽祖父の書状類まで見つけてしまった。読み通すまでまだ少し時間がかかりそうだ。ほこりにまみれつつ一抹の寂しさを感じたとき、ふと玄関横のバラが目に留まった。枝先には明るい色の新芽を蓄えている。時節もおあつらえ向き、移植を試みる。家の記憶とともに受け継ぎたい。

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