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【書評】文芸評論家・縄田一男が読む『雲上雲下』(朝井まかて著) 物語る者の誇り懸けた一巻

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【書評】
文芸評論家・縄田一男が読む『雲上雲下』(朝井まかて著) 物語る者の誇り懸けた一巻

『雲上雲下』 『雲上雲下』

 いまは分からぬが、かつて、日本の、いや、世界中の子供たちは、母親の懐に抱かれて、「昔々、あるところに」ではじまる物語を聞いたことがあるはずである。

 この本は、読者を限りない優しさで、そうした甘美な幼い頃の記憶へ誘(いざな)いつつ、もう一方で、物語という“共通言語”喪失の危機に対する問題提起を行った稀有(けう)な一巻といえよう。

 何の躊躇(ちゅうちょ)もなく朝井まかての最高傑作といっていい。いや、文学史に残る作品であると断言してもいいのではあるまいか。

 で、この作品は、断崖絶壁の大樫(おおがし)の洞(ほら)のそばに根を張る、丈(たけ)は二丈(じょう)、根許(ねもと)は一抱えもあろうかという「草どん」が、ここにやって来た子狐(こぎつね)を相手に、さまざまな物語を話して聞かせることで幕があく。

 六地蔵ならぬ〈団子地蔵〉、鶴の恩返しならぬ〈開けずの抽斗(ひきだし)〉、そして、作者はこれらの物語が、人が「見てはならぬものを見たいし、交わした約束は破りたい」という欲望と表裏の関係で成立していることを示しつつ、次にささやかな善意の物語〈粒や〉を語っていく。

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