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【書評】市井の経済描いた実験小説 『元禄六花撰』野口武彦著

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【書評】
市井の経済描いた実験小説 『元禄六花撰』野口武彦著

『元禄六花撰』野口武彦著 『元禄六花撰』野口武彦著

 本書は小説のようだが、やがて小説だけでなくなる。中盤は歌舞伎「娘道成寺」の成り立ちが岩井克人『貨幣論』を彷彿(ほうふつ)させる経済の論考のように展開されていたりする。私感を先に述べると、読みつつ脳裏に既視感が湧いた。このような書籍にどこかで出合ったことがある。著者よりずっと若い私が、懐かしさを憶(おぼ)えたのだ。

 元禄を舞台にしている本書は歴史書籍の範疇(はんちゅう)に含まれるのだろう。だが、著者はあとがきにネオフィクションを目指したと記している。時代、現実、仮想の境界を越えた記述群を意味しているらしい。

 著者はジャンルの括(くく)りを嫌ったのか。本書の意図がジャンルに内包されるのをそぐわないと感じたか。巻末のあとがきを「最初に読んでほしいエピローグ」としたように本書には一冊の書物の形式として、あきらかに意図がある。経済についてのそれだ。

 収録作の6編は衒学(げんがく)的なエピソードで元禄期から現代を照射しつつ、カネとは何かについて展開される。著者は元禄期こそ「権力が富を所有する時代」から「富が権力を所有する時代」への転換点と述べる。要するに元禄から日本人はカネに「使われる」ようになったらしいのだ。

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