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【書評】西郷論を通じ日本の近代を読み解く 『未完の西郷隆盛 日本人はなぜ論じ続けるのか』先崎彰容著

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【書評】
西郷論を通じ日本の近代を読み解く 『未完の西郷隆盛 日本人はなぜ論じ続けるのか』先崎彰容著

先崎彰容著『未完の西郷隆盛』(新潮選書) 先崎彰容著『未完の西郷隆盛』(新潮選書)

 本書は、行き詰まり感ある現在を冷静に問い直すため、今に至る思想家による西郷隆盛への評価を考察し、日本の近代の在り方の是非を論じる。あわせて『南洲翁遺訓』を読み解きながら、著者自身も各思想家の主張を検証しつつ、俯瞰(ふかん)して近代を捉えてその実相に迫る意欲作である。取り上げた主たる思想家は、福澤論吉、中江兆民、頭山満、橋川文三、江藤淳、司馬遼太郎と多士済々である。

 西郷には明治維新を成し遂げ、廃藩置県や徴兵制といった近代化を推進した面と、伝統を顧みない極端な欧化政策による近代化の矛盾に最初に気がついて抗(あらが)った面が、つまり近代性と反近代性が同居しており、思想家は反近代性に注目していると著者は指摘する。そこには欧米的な近代化ではなく、慈愛に満ちた世界観を持つアジア主義的な近代化の可能性が潜んでおり、思想家は各自の関心からそれを肯定的に捉えたと論じる。

 福澤諭吉は人びとが不確かな情報に翻弄され、極端な善悪二元論へと傾いていく危険性を「情報革命」に見いだし、近代の病理という視点で西南戦争と西郷の敗北を象徴的に捉える。頭山満は日本がアジアの盟主となって欧米と対抗する大アジア主義を唱え、その実現可能性をかつて有司専制に挑んだ西郷に仮託したが、西郷の政治思想「敬天愛人」に潜む自己絶対化の影響を受けたため、テロリズムヘと駆りたてる狂気も生み出したと分析する。

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