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【書評】ノンフィクション作家・秋山真志が読む『酒は人の上に人を造らず』吉田類著 “達人”の酒場紀行エッセー

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【書評】
ノンフィクション作家・秋山真志が読む『酒は人の上に人を造らず』吉田類著 “達人”の酒場紀行エッセー

『酒は人の上に人を造らず』吉田類著 『酒は人の上に人を造らず』吉田類著

 酒場詩人の著者が東京の下町、北海道、京都、愛媛、広島、熊本など各地の居酒屋を訪ね、酒場の風情と人間模様を描く紀行エッセー。

 著者は高知県出身、本書の冒頭から土佐の土着性たっぷりの独特の飲酒習慣が描かれる。平安時代前期に歌人の紀貫之が著した『土佐日記』には、土佐人の酒宴好きが垣間見られるという。「餞(はなむけ)」と称する宴会が連日連夜催され、舟へ差し入れする者までいたという。いまも土佐の宴会は酔って歌って踊る平安時代のノリなのだそうである。

 本書には文人墨客の酒の上でのエピソードも豊富に盛り込まれていて惹(ひ)き込まれる。大正時代の流行歌「ゴンドラの唄」で知られる歌人の吉井勇は土佐の山里に3年ほど隠棲したことがある。土佐の酒「瀧嵐(たきあらし)」を愛飲し、こんな歌を作った。

 「瀧嵐このうま酒を酌む時の恋にかも似る酔心(よいごころ)かな」

 酒どころ広島の銘酒「醉心(すいしん)」を日本画家の横山大観はこよなく愛し、「主食は“醉心”」と豪語した。大観が酒は米でできているから米粒を何十年も食べなかったという話は人口に膾炙(かいしゃ)している。大観は「酒づくりも、絵をかくのも芸術だ」とし、三代目の蔵元・山根薫と意気投合。山根は一生分の「醉心」を大観に贈ることにして、そのお礼に毎年寄贈された作品で「大観記念館」を造ったという。豪儀なエピソードである。

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