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【新・仕事の周辺】井坂洋子(詩人) ひらめきはめったにこない

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【新・仕事の周辺】
井坂洋子(詩人) ひらめきはめったにこない

井坂洋子さん 井坂洋子さん

 ことばを扱うのはバーベルをもちあげるよりもむずかしい。ことばは鋼鉄のようだと時々思う。ただし、ことばをあやつる自分なりの技がいくつかあって、そこにのっかっていれば何となく書いた気になるが、それは詩とは呼べないだろう。

 昨年、7年ぶりで出した詩集である賞をいただいた。7年ぶりとはいうが、その前の詩集もたしか7年ぶりで、10年ほど間があくときもある。そんなに長いことかかって今度の詩集のように僅か二十数篇(へん)の短詩しかできなかったのかと思うが、そうなのだから仕方ない。

 時代小説家だった祖父は、夜ごと原稿用紙を照らす小さな蛍光灯に焼けて、左手の甲がまっ黒になるほど励んでいた。

 「詩人は怠けものだね」と言っていたことがある。頷(うなず)く一方で、いちがいにそうとも言いきれないと胸の内であらがった。詩は時間を喰(く)うのだ。

 詩も小説も書いた室生犀星は、「小説をかくといふ困難な仕事は、ざつと十人くらゐの作家の頭を併せて持たなければならない」と言い、「毎日小説をかくといふことは毎日人間のあらを捜し廻つてゐること」とも言った。散文の仕事量がはんぱない人で、数度の濫作の時期がある。しかし、詩は大事にしていた。

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