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【話の肖像画】ダウン症の書家・金澤翔子 母・泰子(1) 不思議な世界とつながる

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【話の肖像画】
ダウン症の書家・金澤翔子 母・泰子(1) 不思議な世界とつながる

翔子さん(左)と母、泰子さん=東京都大田区(桐原正道撮影) 翔子さん(左)と母、泰子さん=東京都大田区(桐原正道撮影)

 〈産経新聞の読者のために書いた「新年の一字」は「光」だった。翔子さんは、本紙1月5日付朝刊に掲載された「光」を揮毫(きごう)する前、祈りを捧(ささ)げて巨大な筆を走らせたが、不満そうな様子。何度目かでようやく納得がいく作品ができると、満面の笑みでこう言った。「心をこめて書きました。みんなに『光』ってほしいです」。まずは娘と二人三脚で歩んできた泰子さんに語ってもらおう〉

 私は60年以上、書道をやってきましたが、私の書に涙を流してくれた人はいません。でもね、翔子の書には本当に多くの人が泣くんですよ。昨秋、上野の森美術館(東京)で開いた個展では、ほとんどの人が泣いていました。翔子が20歳で初めて個展を開いたときもそう。なぜ泣くのでしょう。

 知的障害を持って生まれた翔子には、競争心というものがまったくありません。いつも穏やかでニコニコしている。私たちは人をうらやんだり、争ったりして苦悩しますが、翔子は別な世界で育ちました。知能指数は低いでしょう。それでもね、違う知性が育って、魂のレベルが純粋に保たれたんです。

 翔子には、偉い人や有名人になりたいといった社会的な成功への欲望がまったくないんです。あるのはただ一つ。みんなに喜んでもらいたい、という思いだけなんです。そんな思いで書いた字には、不思議な力があるのだと思います。

 最初の個展から12年間に、翔子の名前を冠した美術館が4つでき、伊勢神宮や春日大社、厳島神社のほか東大寺や延暦寺など、主な神社仏閣に作品を奉納しました。こんなすごいことを、障害のある翔子が20代でやったんですよ。不思議でしょう。これは私の力ではないんです。

 国体の開会式で天皇陛下の前で5メートル四方の紙に重さ20キロ以上の巨大な筆で「夢」と書いたとき、翔子は小鳥のように小さく見えましたよ。みんな反対しましたが、私がやろうと言い、やらせました。普通は、そんな大きな紙に印もつけずにいきなり書くなんてできませんよ。しかも、3分間で。しかし、数万人の観客が見守る中、翔子はピタリと1字をうまく書き込みました。本当に不思議です。

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