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【書評】不思議さを楽しみながら 『新・神楽と出会う本 歌・楽器・お囃子』三上敏視著

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【書評】
不思議さを楽しみながら 『新・神楽と出会う本 歌・楽器・お囃子』三上敏視著

『新・神楽と出会う本歌・楽器・お囃子』三上敏視著(アルテスパブリッシング・2200円+税) 『新・神楽と出会う本歌・楽器・お囃子』三上敏視著(アルテスパブリッシング・2200円+税)

 神楽とは何か、という問いにたいして、誰をも納得させる答えは存在しない。それはあまりに多様な貌(かお)を持っており、少なくとも芸能としての範型といったものは不在であろう。民俗芸能の一種だと、わかったふりをしておくしかない。実は、この本を読むまで、私はそんなことを一度だって考えたことはなかった。

 著者はポピュラー音楽のミュージシャンであり、民俗学や音楽学の専門家ではない。そもそも民俗学は、文字や映像に記録することがむずかしい音楽を扱う手法を知らず、音楽学は、楽理的なアプローチを逸脱して、歌や舞いの意味内容に関心を向けることをしない。だから、神楽はそれらの学問的な眼差(まなざ)しの向こう側に、また外側に、「神楽」と呼ばれる以上の何ものかであり続ける。

 著者の立場は特異である。神楽の「音楽」性に、きわめて実践的な関心を寄せながら、伝承者自身がそれを「音楽」として意識しているわけではないことを、よく承知している。「民俗芸能」ですらないのかもしれない。こうした留保のうえで、神楽に出会い、衝撃を受けた初心を忘れることなく、この国のいたるところに点在する神楽の場に赴き、何よりその不思議さを楽しんでいる。そうして、神楽の研究者となることを、やわらかく拒絶している。

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