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【この本と出会った】『五つの証言』トーマス・マン、渡辺一夫著 東大大学院教授・木下直之 今日の世界に強いメッセージ

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【この本と出会った】
『五つの証言』トーマス・マン、渡辺一夫著 東大大学院教授・木下直之 今日の世界に強いメッセージ

東大大学院教授の木下直之さん 東大大学院教授の木下直之さん

 若い頃に読んで人生に大きな影響を与えた本の話だろうと思う大方の期待を裏切って、つい最近出会った本について語ろう。きのう知り合った人によって人生が変わることもあるのだから、本だって同じだ。

 最近、といっても、去年の夏が終わる頃だった。本屋で、トーマス・マン、渡辺一夫『五つの証言』(中公文庫)という不思議な本を目にした。刊行されたばかりだった。マンとフランス文学者の渡辺一夫がなぜ共著者なのだろう。

 手にとって開くと、中身はさらに不思議だった。もとになっているのは、1933年にドイツを追われたマンが亡命先のチューリヒで書いた「ボン大学への公開状」など4つの文章である。それをアンドレ・ジードが37年にフランス語に訳し、「トーマス・マンの最近の文章を読んで」という序文を寄せた。それを渡辺が日本語に訳し、「トーマス・マン『五つの証言』に寄せて」という序文を寄せて、46年8月に刊行した。

 マンとジードを紙上で出会わせて、『五つの証言』としたのである。この時点で、渡辺は訳者にとどまっている。しかし、渡辺の4つの文章をさらに併せて本書は成り立ち、「中公文庫オリジナル」をうたう。ゆえに渡辺は著者でもある。

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