産経ニュース

芥川賞に決まって 若竹千佐子 「どん底」の圧倒的な笑い

ライフ ライフ

記事詳細

更新


芥川賞に決まって 若竹千佐子 「どん底」の圧倒的な笑い

芥川賞の受賞が決まり、記者会見で笑みをみせる若竹千佐子さん =16日、東京都千代田区の帝国ホテル(佐藤徳昭撮影) 芥川賞の受賞が決まり、記者会見で笑みをみせる若竹千佐子さん =16日、東京都千代田区の帝国ホテル(佐藤徳昭撮影)

 趣味、映画鑑賞と言ってはみたいが、私はそれほど映画を見ていない。それでも心に突き刺さって立ち上がれなかったほどの作品は何本かある。3、4年ほど前に見た黒澤明監督の「どん底」(昭和32年)もそうだった。

 私はそのころ迷っていた。構想していた小説には何かが決定的に足りないけれど、それが何なのかはっきりとはつかめていなかった。

 この映画にのっけから引き込まれた。お寺の小坊主が塵(ちり)取りのごみを捨てる。捨てた崖下にまさに掃きだめのようなぼろ屋があり、そこがこれから始まる映画の舞台なのだと分からせるのだ。それにしても聞きしに勝るぼろ屋だった。あんな汚いセットは見たことがない。

 つっかえ棒でやっと立っている柱、破れ障子、床にはきっと蚤(のみ)虱(しらみ)が這(は)っていそうで見るだけでむず痒(がゆ)い。そこに生きる人々の、「どん底」は群像劇だった。

 登場人物すべてが際立っていた。誰一人として役を演じている人はいなくて、その人を生きている。人物ひとりひとりを取り上げて言ってみたいことはいっぱいあるけれど、誰か一人と言われれば鋳掛屋の男。水戸黄門でなつかしい若かりし頃の東野英治郎が演じていた。鋳掛屋とは穴の開いた鍋釜を修理する仕事らしい。

続きを読む

関連ニュース

「ライフ」のランキング