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【文芸時評】「芥川賞までの人」になる予感がする 2月号 早稲田大学教授・石原千秋

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【文芸時評】
「芥川賞までの人」になる予感がする 2月号 早稲田大学教授・石原千秋

石原千秋さん 石原千秋さん

 人間は自分たち人間を人間でなくそうと努力している、あるいは、不要にしようと努力している実に不思議な生き物だ。ロボットやAI(人工知能)のことである。パソコンはパソコンが発明されるまで文学のテーマとはならなかった。それはパソコンが人間ができることをやっているわけではないからだ。しかし、ロボットやAIはそれが発明される前から文学のテーマとなっていた。それは、ロボットやAIが人間に似ているからだ。別の言い方をすれば、ロボットやAIは人間のできることの延長線上に位置するからである。

 夏目漱石に「現代日本の開化」という有名な講演がある。漱石は開化(=近代化)には2種類あるという。一つは「消極的のもの」で、時間だのエネルギーだのを節約するための開化である。近代は「できるだけ多くのものを、できるだけ遠く、できるだけ早く」を目標にしてきた。そのために節約できることを形にするのがテクノロジーで、便利さを求める近代の根本を支えている。もう一つは「積極的のもの」で、たとえば学問を含めた「道楽」のようなものだと言う。この2つの開化は複雑に絡み合っているとも言っている。それはそうで、「道楽」から来る科学的思索が近代科学を発展させ、哲学的思索が人を管理する理論を生み出すのだから。フーコーが見ぬいたように、「知は力」なのである。当代最高の教育を受けた漱石文学の主人公たちが「知」を浪費しているのは、それは「知」が「力」になるのを避けるためではなかったか。漱石はそれ以外に答えを出せなかったのではないだろうか。

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