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【書評】文芸評論家・池上冬樹が読む『水底の女』レイモンド・チャンドラー著、村上春樹訳 読み比べたい新訳完結作

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【書評】
文芸評論家・池上冬樹が読む『水底の女』レイモンド・チャンドラー著、村上春樹訳 読み比べたい新訳完結作

『水底の女』レイモンド・チャンドラー著、村上春樹訳 『水底の女』レイモンド・チャンドラー著、村上春樹訳

 本書は1943年に出版された私立探偵、フィリップ・マーロウものの第4作で、過去に『湖中の女』という題名で田中小実昌訳と清水俊二訳が上梓(じょうし)されている。今回久々に読み返して新鮮な印象を覚えたが、それはもちろん村上春樹の新訳だからである。

 物語は、マーロウが香水会社の社長から、1カ月前に失踪した妻を捜してくれと頼まれる場面から始まる。姿を消した別荘にいき、湖底に眠る女性の死体を発見して複雑な人間関係と過去を追及する。

 解説で村上は、チャンドラーの長篇がもつ溌剌(はつらつ)とした魅力に欠けていて、“ゆるめのプロットひとつで”長篇を書いたことを問題視しているが、ファンの間ではトリッキーと評されて一定の人気もある。ハードボイルド派は本格ミステリ派に対抗して生まれたが、ハードボイルド派による本格揶揄(やゆ)にも見えて面白い。

 しかし村上の姿勢は、ハードボイルドとしてではなく、「準古典文学作品」として翻訳をすることにある。チャンドラーの“素晴らしい”“オリジナルな文体”を“できるだけ原文に忠実”に日本語に置き換えることだ(かつての翻訳は逐語訳ではない)。

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