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【書評】文筆家・木村衣有子が読む『秋田犬(いぬ)』宮沢輝夫著 「日本らしさ」教えてくれる存在

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【書評】
文筆家・木村衣有子が読む『秋田犬(いぬ)』宮沢輝夫著 「日本らしさ」教えてくれる存在

『秋田犬(いぬ)』宮沢輝夫著(文春新書) 『秋田犬(いぬ)』宮沢輝夫著(文春新書)

 「哲学者」「高潔」「孤高」「瞑想(めいそう)家」。これらは、秋田犬にどうしようもなく惹(ひ)きつけられた人たちがつい口にする、褒め言葉である。その人たちが住むのは日本ではなくて、イタリア、ロシア、中国など。国内よりもむしろ、諸外国にて秋田犬が熱心に求められている現状のリポートから、この本ははじまる。

 「三角形の耳、太い巻き尾、つり上がった三角形の目」。いかにも素朴で、大きくて強くて、日本らしい犬。それが、秋田犬なのだ。

 とはいえ、秋田犬の輪郭はかつてはそうではなかった。本書には「明治の日本が目指した『和魂洋才』を、犬の世界で体現したのが秋田犬と言える」とある。

 数多の秋田犬関係者が登場する、そのうちのひとりで長く日本犬の研究を続けてきた人の言葉に「秋田犬はアメ細工のように人間の手でいろいろな姿形に変えられてきました」とあるのが目にとまる。

 明治期、秋田では闘犬大会が流行(はや)った。とにかく強くしようと、元からいたマタギ犬を、洋犬や土佐闘犬と交配させて子犬を産ませ、秋田犬の原型をつくる。その結果、体は大きくなったものの、耳はぴんと立たず、尾も巻かない犬が増えていく。昭和初期に秋田は大館で生まれたあの渋谷のハチ公も、現在の基準に照らし合わせれば、純粋な秋田犬とは言い切れないという。

 さらに、やはり耳を立たせたいとなり、同じく三角の立ち耳をした樺太犬の血も混ぜていく。樺太犬とは、有名どころだと、南極観測隊のタロ、ジロ。すると樺太犬由来の、毛がもしゃもしゃと長い秋田犬が10~20%の割合で生まれてくる。青森は鰺ケ沢町で愛される、イカ焼き店の名物犬「わさお」がそうだ。しかし、長毛の場合は秋田犬とは認められないという意見も根強くあるそうなのだ。

 作為なく、いじらしく、ただそこにいるだけの犬なのに、人は時代によって物差しを持ち替えて測ろうとする。勝手なものだ。「秋田犬らしさ」ひいては「日本らしさ」とはなんだろうな、というところまで考えさせられる、読み応えのある犬本。(文春新書・860円+税)

 

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