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【書評】イメージ打ち砕く様が壮観 『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』小川剛生著

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【書評】
イメージ打ち砕く様が壮観 『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』小川剛生著

 そして、この系図を捨てるかわりに伝記の根本史料となるのが、神奈川県の称名寺に伝来した『金沢(かねさわ)文庫古文書』である。いままで何人もが挑戦してきた兼好情報を伝える文書が、著者の深く広い学知によって、初めて的確に分析されていく。

 この分析から、鎌倉幕府の執権を後に務める金沢貞顕(かねさわさだあき)の使者として行動する兼好や、鎌倉・金沢にルーツを持つ無位無官の若い兼好が見えてくる。こうして兼好イメージの反転が起こっていくのである。

 使者として登場する若者、兼好は「遁世(とんせい)」によってさらに自由の身となり、抜群の記憶力と博識を生かし、文学的才能と実務能力の両方を生かし、京都を舞台として、階層間や多元的権力間をつないで動乱の世を生き抜いた。

 のちの室町将軍は、こうした遁世者を多く抱え込んで交渉事にあたらせつつ文化の先頭を切らせたのだが、先駆にあの兼好がいたのである。(中公新書・820円+税)

 評・松岡心平(東京大教授)

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