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【新・仕事の周辺】池上永一(作家) 小説のなかの料理にこだわる

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【新・仕事の周辺】
池上永一(作家) 小説のなかの料理にこだわる

池永永一さん 池永永一さん

 レシピ通りに作ってみると、普通に美味(おい)しい。しかし小説のなかの料理はちょっとバランスを崩した方が、より美味しそうに感じるから不思議だ。

 たとえばクニャペという現地で食べるパンがある。フランスパンのように固く焼くのがコツだが、レシピでは粉チーズとユカ芋の粉は半々とある。これを意図的にバランスを崩して粉チーズを3分の2にしてみる。するとパンの食感が薄れ、チーズ味のパンから、パンの形をしたチーズに変わる。新鮮なパンチを与えるのは後者の方だ。

 バランスを崩すためにさまざまな手法を試みた結果、省略した方が料理の個性が際立つのがわかった。レシピからある品を引いてみるのだ。たとえば煮込み料理のプチェロ・デ・カルナバルから鶏肉を引く。するとポトフそのものになって、より構造が明確になる。

 現地の味を忠実に再現するよりも、食べてみたいと思わせる描写の方が小説的なのである。フード写真家が料理の盛りつけにこだわるように、小説家は構造にこだわる。

 ぼくはこうやって『ヒストリア』のなかに15種類のボリビア料理をちりばめた。バランスを崩したために料理の腕はあがっていないけれど、活字のなかでは美味しそうな匂いが立ち込めているはずだ。

                   

【プロフィル】池上永一

 いけがみ・えいいち 昭和45年、那覇市生まれ、のち石垣島へ。平成6年、早稲田大学在学中に「バガージマヌパナス」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。10年、『風車祭(カジマヤー)』が直木賞候補に。以後、『レキオス』『シャングリ・ラ』など壮大なスケールのSF作品、『テンペスト』『黙示録』など沖縄が舞台の歴史時代作品などで注目を浴びる。南米文学に影響を受け、沖縄との共通点を見いだしてマジック・リアリズムを作品に取り入れている。昨年、『ヒストリア』(KADOKAWA)で第8回山田風太郎賞受賞。

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