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【ゆうゆうLife】家族がいてもいなくても(529)

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【ゆうゆうLife】
家族がいてもいなくても(529)

 それが他の人にどう感じられるかは分からないが、私には、さまざまな記憶を呼び覚ます懐かしい香りだった。香りによって、かつての記憶や感情が蘇(よみがえ)ることを、マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」の有名な冒頭シーンにちなんで、「プルースト効果」なんて言う。まさにそれ。

 この地で触れる雨のにおい、雪のにおい、木々の香り、そういうものが、自分を生き返らせる気がして、惹(ひ)きつけられてしまった。

 思えば、父の転勤で東京に越してきたとき、10歳の私は、都心に出ただけで具合が悪くなった。幾度もデパートなどの休憩室で休ませてもらわねばならなかった。

 母が、「この子はどうなっているの、どこにも連れていけないじゃない」と嘆いていた。

 次第に環境に慣れていったのだけれど、その時以来、原因不明の片頭痛や腹痛などが、20年ぐらい続くことになったのだった。

 そんなことを思いだしつつ、冬の冷気に心身を洗われ、そば打ちを手伝い、初詣に行き、美味なお節とおとそで初春を祝うというお正月らしい時間を過ごし、東京に戻ってきた。

 新たな心境を得て、今年は前向きに暮らしていけそうな気がする。(ノンフィクション作家・久田恵)

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