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【この本と出会った】文学研究の原点は中3の経験 『浮雲』二葉亭四迷著 早稲田大学名誉教授・中島国彦

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【この本と出会った】
文学研究の原点は中3の経験 『浮雲』二葉亭四迷著 早稲田大学名誉教授・中島国彦

中島国彦・早稲田大名誉教授 中島国彦・早稲田大名誉教授

 若き日の二葉亭四迷が書いた『浮雲』は、机辺のいつも手を伸ばせる場所に置いている一冊である。中学3年生の時、社会科の授業で、近代日本の歩みを学習した。鎖国から世界へ広がっていく若々しさに満ちた「明治」という時代や、そこに活躍する人々が、まぶしかった。近代日本をめぐって何かテーマを決め、感想文を書く宿題が出た。わたくしが、最初の近代小説といわれる『浮雲』を読んでみようと思ったのは、題名だけ知っていたこの作品が、以前から気になっていたからであろう。大学で日本の近代文学を学び、それを教えることになるとはまだ想像がつかない時期のことだ。

 文庫本を買って、読み出した。注も何もない正字旧仮名の本文で、最初は苦労したが、ストーリーが展開し出すと、少し面白くなり、人物の心理が少しずつ見えてきた。宿題は苦心してまとめて提出したが、それがわたくしの近代小説をめぐって書き記した最初の文章になった。文三・お勢・昇などの登場人物は、いかにも時代を映す人間だが、中でも現実の中で一人思いを凝らし始める文三の姿が、次第に浮かび上がってきた。「浮雲」の2文字が、昔は「あぶなし」と読まれていたということを後に知ったが、その時は、明治という時代は、単純に割り切れるものではなく、また社会の中で生きていくのはひどく難しそうだ、という感想を持ったように思う。その読後感をどう文章にまとめたかは忘れてしまったが、作品の奥に潜む、時代を映す文学作品の内実を探りたいという、文学研究の原点に触れた経験になった。

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