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【書評】豪傑でなく「不器用」な実像 『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』家近良樹著

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【書評】
豪傑でなく「不器用」な実像 『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』家近良樹著

家近良樹著『西郷隆盛』(ミネルヴァ書房) 家近良樹著『西郷隆盛』(ミネルヴァ書房)

 本書は、学術書として、いわば「模範演技」のような作品である。第1に、非常に読みやすい文章であること。500ページを優に超えるにもかかわらず、坦々(たんたん)と読み進めれば容易に2週間程度で読破できるだろう。学術書の悪文とは無縁なのがまずは魅力である。第2に、史料をふんだんに使って西郷の性格にまで迫っていること。書簡を縦横無尽に引用し、実証性はもちろんのこと、何より西郷の性格を度量が大きくない、「不器用な人物」と喝破した点に特徴がある。豪放磊落(らいらく)、であるがゆえに古色蒼然(そうぜん)とした天下の英雄イメージを覆すに十分なだけの魅力と危険性を、新しい西郷像として描いている。

 そして最後に、著者自身の強い思い入れだ。家近氏は自らの心身の危機を投影し、西郷隆盛の健康状態に注目して文章を書き進める。日本人にとって死とは何か、どう生きて、どう死んでいくことが理想なのか-こうした激しい問いを持ちつつ、冷静な筆致で西郷を描こうとしている。

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