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【書評】文芸評論家・池上冬樹が読む『ぼくらが漁師だったころ』チゴズィエ・オビオマ著、粟飯原文子訳 仲の良かった家族、狂人の予言で崩壊の道へ…もう戻れない

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【書評】
文芸評論家・池上冬樹が読む『ぼくらが漁師だったころ』チゴズィエ・オビオマ著、粟飯原文子訳 仲の良かった家族、狂人の予言で崩壊の道へ…もう戻れない

『ぼくらが漁師だったころ』チゴズィエ・オビオマ著、粟飯原文子訳 『ぼくらが漁師だったころ』チゴズィエ・オビオマ著、粟飯原文子訳

 まったく未知の、アフリカの一つの家族の瓦解(がかい)の物語が、これほど重く深く胸に迫るとは思わなかった。読んでいて辛(つら)く、悲しく、何度か本をおいたが、最後まで読めば〈精神の漁師になれ〉という言葉が温かく伝わってくる。

 1996年、ナイジェリアのアグウ家の4人兄弟は、父親が遠くへ単身赴任したことにより、たががゆるみ、学校をさぼって近くの川に釣りに行くようになる。だが、そこで1人の狂人と出会い、家族にまつわる恐ろしい予言をいわれる。それを信じた長男イケンナは人が変わり、親に対して反抗的になり、家族は崩壊の道をたどることになる。

 物語は、四男のベンジャミンの視点から9歳の時の家族の悲劇を振り返る。政情不安のナイジェリアとはいえ、男だけの4人兄弟は仲がよく、何でも行動をともにしていて、冒頭は牧歌的な風景が展開するが、予言のあと狂気がさしこみ、不穏な状況へと入り込んで一気に暴力が噴出することになる。もう二度と幸福な家族には戻れなくなる。

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